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学祭公演日『おとしもの』9
「裁判官・・・判決を」
「そうですね。被告人の未来に駆けて無罪放免と致しましょうか」
裁判官が判決を言い渡し、男は舞台から客席へと連れて行かれた。
客席に居る家族と合流し、何やら言葉を交わしている様子だ。
後に残された青年の元に女性が近寄る。
「だいぶ記憶が戻ったみたいね?名前、思い出したかしら?」
「肝心の名前のことをすっかり忘れてました」
「さっきの先輩とやらに聞いてみたらよかったのに」
「夢中で自分のことなんてすっかり忘れてました」
「あなたってお人好しなのね。自分の名前を失くしちゃったってのに他人の心配なんてして」
「でも、今の出来事で何か大切なことがわかった気がします」
「大切なこと・・・?」
「次の場所に行きましょうか」
舞台は暗転し、セットチェンジが行われる。
席を立つ客の姿はない。
先程舞台に上がった男も、妻と娘3人で客席に座ったようだ。
舞台が明転し、青年と女性にスポットライトが当たる。
「・・・ここは?」
「僕にもわかりません。ただ、ここが僕にとってとても大切な場所だということはわかります」
「ふうん・・・なんだか殺風景な場所ね」
女性は辺りを見回す。
舞台上には家具一式が置かれている。
ふと机の上に置かれた写真立てを手に取った。
「これ、家族写真かしら」
青年もその写真を覗き込む。
「そのようですね」
「もしかしてあなたの家族なんじゃない?ほら、この男の子とか、あなたの幼い頃なんじゃないかしら」
「そう言われればそうかもしれませんが・・・何分家族の記憶がないもので・・・」
女性は写真立てを置き、青年に向き直った。
「名前・・・本当に取り戻したい?」
「・・・どういう意味ですか?」
「あなたは名前を失くしたっていうより・・・自分から捨てたんじゃないかって思うんだよね。もしそうだとしたら、あなたが名前を取り戻したらまた捨てたいと思うんじゃない?」
青年は女性が言ったことについてしばらく考えを巡らせた。
自分から名前を捨てたんだとしたら、わざわざ探して見つる必要なんてないんじゃないだろうか。
だが、青年の考えははっきりとしていた。
「もし、そうだとしても・・・僕は名前を見つけたいと思う。自分が何者か知らずに生きていくことなんてできない・・・」
青年の発言からは強い意志が感じられた。
「じゃあ、この写真立てに写ってる人たちのところに行こう」
「でも・・・それがどこだか僕には・・・」
「私、この人達のこと知ってる。つまり、あなたの両親のこと」
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