学祭公演『おとしもの』16
「どういうことだ?」
王様の問いに王子は言葉を探しながらゆっくりと答える。
「父さんの言う通り、僕は王家に生まれてきたというだけで優遇されてきた。与えられたものに不満を持ったことなんかないよ。でも、そうやって優遇されている僕を見て疎ましく思う人間もいる」
「それはどこの誰だ?お前を傷つける者がいるのなら即刻打ち首だ!」
王様は鋭い剣幕で言い放った。
対照的に王子は冷静で、ゆっくりと頭を横に振った。
「僕は誰かに傷つけられたりしてないよ。ただ、そういう人もいるってこと。疎ましく思ったり、羨ましく思ったり、なんであの人が優遇されてるのに自分はこんな目にあってるんだろうってね。そういうの、目を見ればわかるんだ」
王様は頭を抱えて項垂れた。
「お前が生まれつき不思議な力を持っていることに薄々気が付いてはいた。お前は・・・人の心が分かるんだな?」
「全部じゃないけどね。目を見ればわかるってだけ」
王妃も口に手をやったまま、涙目になっている。
王子は話を続ける。
「幼い頃から、そういうよくない感情を見てきたからかな・・・。本当に友達と呼べる人なんて・・・僕にはいなかった。本当の意味で分かり合える人は・・・」
「相談してくれればよかったじゃない」
王妃が涙交じりに言った。
「あなたが抱えている不安や痛みを全部私達に教えてくれれば・・・」
「何度も相談しようとしたさ。その度に何かしらの理由をつけて話を聞いてくれなかったじゃないか」
「それは・・・」
「それにこんな話したって、信じてくれないと思ってさ」
王様と王妃は何か言い返そうとしたが、思い当たるところがあるのか、俯いてしまった。
「僕は、この国の王子である限り、本当の意味で人と分かり合えることなんてないんじゃないかって思った。そんなとき、城の古い蔵の中で魔法書を見つけたんだ。そこには名前を捨てる魔法が載っていた。これだ、と思った。僕は名前を捨てて1から人生をやり直そうと思ったんだ。王子という肩書を捨てて、ありのままの自分と向き合ってみたかったんだ。そして、王子という肩書を失った自分と分かり合える人を探していた」
王子はちらりと女性の方を見た。
女性は小さく頷き返す。
「それが、そちらの女性だというのか?」
「うん。心を通わせた相手が僕の名前を呼んだ時、魔法が解けるようになっているんだ。だから、このひとは僕にとって生まれて初めて心を通わせた人ってことになる」
王様は腕を組んで頭を悩ませた。
「それで、お前はこれからどうするつもりだ?」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?