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学祭公演『おとしもの』6

「さっきから何言ってんだ、お前」
「先輩、昔から言ってたじゃないですか!報道の力で世界を変えてやるんだって」
「・・・・・」

青年の言葉に何か思うところがあったのか、男はついにだまりこんでしまった。
自分の中で何かを整理している様子でもあった。
舞台にしばらく沈黙が続く。
ざわついていた観客も次第に静かになっていく。
会場全体が男の発言を待っているかのような静けさだ。
これに耐えかねたのか男が声を漏らした。

「仕方ないんだよ・・・」
「・・・すみません、よく聞き取れなかったのでもう一度言ってもらっていいですか?」
「俺だって好きでやってるわけじゃない!これは仕事だ。飯を食うためには仕方ないんだよ。お前らガキにはわからないだろうが大人には色々あるんだよ。やりたくない仕事ばっかりだし、誰かに誇れるようなことなんて一つもない。でも、それが普通だ。やりたいことをやって生きていける奴なんて一握りなんだから。そうさ、そうやって輝いてる連中だったら、少しぐらい私生活暴いたってバチは当たらねぇだろ?その中に多少嘘が混じってたって大した問題にはならねぇ。そうだろ?結局のところ大半の奴にとって、夢を叶えてキラキラ輝いてる連中は疎ましい存在なんだよ。俺の読者はそいつらが失脚するのを待ち望んでんだよ。そういう奴らがいる限り無くなりはしねぇんだよ。たとえ俺が書かなくても誰かが書くんだ。お前ら俺に恨みがあるのかもしれないがそれはお門違いだ。恨むとすればこの世界を恨むんだな」

男は早口でそう言い切った。
感情に任せて大声を出したため、息が切れ切れになっている。
開き直って悪態をついた男に対して観客はもちろん、舞台の上の演者達も一瞬固まってしまった。
やはりこの男の登場は演出ではないのではないかと疑念が持ち上がり、会場がまた少しざわつき始めたその時、奥から男性が現れた。
先程の教師役の男である。

「静粛に」

低音ではっきりと響いたその声は威厳を纏っていて、会場が一気に静かになる。
先程までの教師の衣装とほとんど変わりなかったが、その一言だけで裁判官が現れたということがわかった。
裁判の途中で裁判官が現れるというのも変な話だが。

「今、被告人は、嘘をつくのは問題ではないと発言しました。確かに時と場合によっては嘘は相手を救うことにもなります。しかしーーーーー逆もまた然り。嘘は相手を傷つけ、場合によっては死に追いやることもあるでしょう。こうなるともはや嘘は立派な殺人未遂ということになります。被告人の書く嘘の記事は、人を傷つけ場合によって死に追いやると判断されます。よって、被告人を・・・・有罪とします」

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