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学祭公演『おとしもの』7

「おいおい、何勝手に有罪とか決めてんだよ。何の権限で」
「静粛に。法律の下に、すべての民は平等です。何かの権限があってあなたを裁いているわけではありません。ただ、法があなたを裁いているだけです」
「法律のほの字も知らない奴がデタラメ言ってんじゃねぇよ」
「おや?デタラメはあなたの得意分野ではないですか?」

口論がヒートアップしていき、慌てて女検事が裁判官を止める。
こんな裁判、あり得ないよな・・・と観客もさすがに感じていたが、被告人の男がムキになる辺り、彼にとっては本当の裁判のように感じられているのかもしれない。
傍聴席から駆け寄った青年が訴える。

「裁判官、情状酌量の余地はないんですか?」

本来、部外者である傍聴席の人間の発言を裁判官が聞き入れることなどあり得ないが、ここでは裁判官が「ふむ」とばかりに思案顔を見せる。

「この男は極刑に処すべきです」

女検事が大きな身振り手振りで主張する。
彼女の迫力には芝居を超えた、何か鬼気迫るものを感じる。

「わかりました」

裁判官が言う。

「この男は決して許されるべきではない。それについては一切の疑問はありません。しかし、彼がもし、これまでのことを反省して心を入れ替えて誰かを妬まず、踏み台にせず、むしろ人に手を差し伸べるような人間になると言うのであれば、話は別です。その意思が彼から伝われば、情状酌量の余地もあるでしょう」
「裁判官、お言葉ですがこの男、根っからのクズです。クズはどうなろうとクズです。心から反省したり、誰かに手を差し伸べるようなことなどありません」

女検事の強い言葉に会場がどよめく。
こうした公的な場で聞くには甚だ下品な言葉にも感じられた。
それほど、女検事の怒りは激しいのかもしれない。
女検事の言葉に被告人の男は「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

「待ってください、検事さん」

割って入ったのは、名前を失った青年である。
ちなみに一緒についてきていた女性はこの様子をずっと遠巻きに見ている。

「確かに先輩は変わってしまいました。誰かを陥れるような仕事をしているなんて、最低の人間です。でも・・・僕は知っているんです。本当は先輩、心優しい人なんです。だからさっきだってやりたくない仕事だってあるって、そう言ったんですよね?」
「お前はさっきから何をわかったような口を聞いてんだよ。お前みたいな若造が綺麗事ばっかり抜かしやがってな、世の中そんなに甘くねぇんだっての」
「先輩・・・強がらなくても大丈夫ですよ。辛い時は辛いって言わないと心が壊れます。そして、悪いことをしたら謝らないと・・・」

青年は客席の方を指差した。

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