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オブザーバーズカンファレンス 4
「俺が総理大臣になったら・・・そうだな。ここにいる全員に酒を奢ってやるよ」
「公約しょっぱいな」
常連客の連れが「俺もおかわり」とグラスを差し出した。
店主は「かしこまりました」と丁寧な仕草でグラスを受け取った。
それを区切りに常連の男の話は有耶無耶になった。
代わりに女が口を開く。
「それより、聞いてよ。マジでムカつくんだけど」
さっき言っていた愚痴の続きらしい。
隣の男が止めに入る。
「あんまり絡むと迷惑だから」
「最初に絡んできたのはあっちなんだから、付き合ってもらう権利はあるんじゃない?」
無茶苦茶な理論だが、常連客は気を悪くしなかった。
「俺たちでよければ聞くぜ」
「ああ、ちょうど暇だったしな。それにそっちのあんちゃんも1人じゃ抱えきれないって顔してるしな」
もしも、総理大臣になったら・・・みたいな話をする程度には暇を持て余しているのだ。
女の愚痴にさして興味はなかったが、酒の肴には丁度いいと判断したのだろう。
掌を上に向ける形で差し出して、女に話を促した。
女はカクテルに口をつけてから、話し始める。
「私には3年追いかけてる推しがいるの」
「・・・オシ?」
常連客が顔を見合わせる。
女は分かりやすく溜息をつく。
「推し活のことよ」
女の説明が常連客にはわからない。
女の連れの男がさらに説明を付け足す。
「好きなアイドルがいるんですよ」
「ああ・・・」
ならそう言えばいいのにと、常連客は思ったが口には出さなかった。
「で、その推しが今日、熱愛報道されて」
「ほう」
常連の男は話の成り行きがわかった様子で頷いた。
「しかも、相手の女がグラビアアイドルよ?信じられる?私達に嘘ついてたのよ?清純派で売り出してたし、真面目で純粋なところを応援してたのに、まさかグラビアアイドルと付き合ってたなんて!子どもがどうやって産まれてくるか知らないみたいなこと言ってた癖に、夜はグラビアアイドルとよろしくやってたなんてふざけてるわ」
女の言葉に常連客は思わず吹き出してしまう。
「何がおかしいのよ?」
「いや、悪い悪い。あんたを馬鹿にするつもりはないんだ。夢見るのはあんたの自由だもんな」
「何が言いたいの?」
「別に・・・」
常連の男がカクテルを飲み干す。
ぷはぁーと吐き出した息は酒臭い。
ごんとグラスを置いて、男は言った。
「まあ、あんたがそいつに夢を見るのが自由なんだったら・・・そのアイドルだって自由に生きてもいいんじゃねぇのか?」
男はまた言い負かしたような優越感に浸りながら、おかわりを頼んだ。
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