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【R5開拓者の時間】知の技法〜対話型論証①〜

 福島県立安積高等学校では、令和4年度入学生より、履修する総単位数を1時間減じて、週に1時間の頻度で「開拓者の時間」という特色ある時間を時間割に設定してます。No+eの特性上、記事が投稿順になってしまうので、No+e初心者の私は古い内容の記事から紹介していましたが、執筆速度が遅いため、なかなか現在に到達しません。
 令和5年度の実施内容については、令和4年度と同じ内容も多いことから、時系列を無視して掲載することとします。

対話型論証

 令和6年1月11日に1年次生を対象に実施した開拓者の時間では、教務主任が担当して「知の技法〜対話型論証①〜」についてのワークショップを行いました。対話型論証とは、 京都大学大学院教育学研究科教授である松下 佳代先生らが提唱している論証の技法で、授業や探究活動との親和性がとても高いものです。

 Ⅲ期申請中である令和6年度以降の安積高校SSHの企画書では、この対話型論証を思考を組み立てる際のツールとして重視しています。それを令和5年度入学生に開拓者の時間で先行して紹介した形となりました。

経緯

 安積高校では、令和4年度入学生より単位制へと変わり、令和7年度より併設中学校が開校します。そのため令和2年度より「単位制導入・併設中設立ワーキンググループ」を立ち上げて、さまざまな検討をすすめてきました。その中で安積の学びについて先生方から多く出てきた意見が「学びの自走ができていない」「学び方がわかっていない」というものでした。

 そこで学び方とは?と議論しました。我々教員は、生徒も学び方がわかっていない!とよく言うけど、そもそも学び方をきちんと教えているだろうか?と。ワーキングループでは、テストや考査に向けて闇雲に詰め込み、テストが終わるとすっかり忘れてしまうようなものではなく、また、塾的なノウハウによる与えられた学びでもなく、もっと知識を自分の中で構造化したり概念化・抽象化する過程が大切なのではないかという意見が出ました。

 おそらくどこの学校でも同じような議論がなされてきているのではないかと思います。文部科学省でも「探究的な学び」や「対話的で深い学び」、「主体的に学ぼうとする力」を強調しています。
 実際に探究活動で生徒同士が対話しながら学ぶ効果を感じつつも、対話による知の概念化を促進するためには、まず対話そのもののレベルを高める必要があり、そのために教員の高い経験値と相当な時間が必要となってしまうことが悩みでした。

対話型論証との出会い

 そんなある日、令和6年度に向けてSSHのⅢ期申請のための企画で中心的な役割を担っている物理の教員が私に、

物「こんな本があるんだけど・・・。
 生徒が考えていることをワークシートにまとめていくと、
 自ずと論理的な思考の展開となるように導いてくれる・・・」
私「あれ? これ見たことあります。
 このまえ、インターネットで読んで気になってました。
 このページのことじゃないですか?」
物「えーっ、本買わなくても見れるの?」
私「あっ、でも本を買わないとダウンロードできない資料もあるみたいです。」

 こんな感じで、複数の教員が別々なツールから対話型論証に行き着いたということです。

「開拓者の時間」の内容

 1時間目の内容は三角ロジックです。
 個人的な印象では、対話型論証には2つのハードルがあり、1つが三角ロジックにある「根拠(データ・事実)」と「原因・理由(データの解釈)」を明確に分けることができるか?ということであり、もう1つが、対話すべきもう一人の自分(対立意見)の質をどれだけ高めることができるか?です。
 1時間目は、この三角ロジックのみに焦点をあてて紹介しました。

 生徒たちは、データ・事実もデータの解釈もごちゃ混ぜにして「根拠」としてしまいます。そこで相関関係と因果関係を考える次のような問いを出しました。

 このことについては、すでに以前の開拓者の時間で解説済みであるのですが、ここでもう一度復習です。
 そして、因果関係を類推する力として抽象力が必要であることを確認しました。

 その後、冬休みの数学の課題でも同じことを学んでいたこと、

 さらには、大学入学共通テストや入試の小論文でも頻出であることなどについて、解説しました。(このことについては、別な記事にも書いていますので、興味がある方はそちらもどうぞ)

 相関関係と因果関係を明確に分けることの重要性を思い出してもらったところで、いよいよ三角ロジックの型を解説しました。

 さらに、②の”データの解釈”を特にWarrantと呼び、とても重要であることを解説しました。
 中学校の国語の教科書(光村)のなかでも、「全校生徒320人のインターネット利用時間は、1日平均2時間である(アンケートの結果から)」というデータから、2人の生徒が異なるWarrantにより全く逆の主張をする例が載っていることを紹介した後、いよいよExercise 2として、大学入試によく出題される「政策論題」「価値論題」「推定論題」の3つの論題について、相反する結論を導く2つのWarrantを考える演習に挑戦してもらいました。

価値論題の例
政策論題の例
推定論題の例

1時間目はここまでで終了です。
この続きは「【R5開拓者の時間】知の技法〜対話型論証②〜」へ。

令和4年度の取り組みはこちら


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