6日目(雨のち晴れ)30代夫婦ヨーロッパ珍道中


妻も体調不良


2日間高熱にうなされた私だったが、この日は熱が引がいていた。
私のウイルスが移ったのか、妻も体調を崩したらしく、「しんどい…」と言って起きようとしない。妻と知り合ってから2年たつが、お互いにここまで体調を崩したのは初めてである。よりにもよって新婚旅行でこのようになるとは、日ごろの行いが悪かったのだろう。
スマホでオーストリアの薬事情を調べてみる。dmストアというのがマツキヨのような存在らしい。妻の情報によると『ゲロリボイス』なるトローチが喉の痛みに良いらしい。
早速購入。独特の味だが、妻は「めっちゃ効く!」と大喜びだった。私は正直そこまでだった。喉の痛みはロキソニンでごまかすことに。繰り返しになるが、これから海外旅行に行く人はくれぐれも薬の準備だけは十分にしたほうが良い。出発の準備をしてウィーン西駅からザルツブルクへと向かった。

チケットの購入で喧嘩


数時間の電車旅の末、ザルツブルクへ到着。ここで開催される音楽祭が今回の新婚旅行の目玉である。
ザルツブルク駅に到着した後は、予め次の目的地であるドイツのフランクフルトへチケットを買うことに。
国境をまたぐため、DB鉄道(ドイツの鉄道)で買わなければならない。しかし、OBB(オーストリアの鉄道)の窓口はあるものの、DB鉄道の窓口が見当たらない。券売機はあるが、よくわからない項目が出てきてチケットの購入ができなかった。
 
窓口がないかもう一度探すことに。こうなると妻はイライラし始める。「ここじゃないの」と妻が指さした先には大きく『OBB(オーストリア鉄道)』と書かれていた。「違うと思うよ」と答えるも、妻はその窓口へズンズン勝手に入って行く。
案内の人にDB鉄道のチケットはどこで買えるのかと尋ねると「あっちのほう」と指さされた。どっちのほうかよくわからなかったが、とりあえず窓口を出て指さされた方向に向かうことに。指さされた先に向かうも窓口らしいものはない。向かった先でさらに聞いてみると、「あっちのほう」と元来た方向を指さされた。
 
妻のイライラはピークに達していた。プリプリ怒りながら早足で歩く妻。ついていく私。「最初の案内の人、あの(OBB)窓口の中を指してたんじゃないの!?」と妻。「いや、違うでしょ」と私。さらにもう2度ほど人に尋ねて、「DB鉄道のチケットは券売機でしか買えない」という情報を得て、再び券売機の前に。

こうなると仕方がない。私は券売機に表示される英語を読み進めながら再びチケットの購入を試みた。イライラがピークでせっかちになっている妻は「他の人にお願いして買ってもらおう!!」と私の横でgoogle翻訳の入力を始めた。もうバラバラである。結局、私のほうが一足早く、チケットは無事に買えた。

がんこちゃんパーカー


DB鉄道のチケット購入後、妻がしきりに「寒い、寒い」と喚き始めた。夏ではあるが、緯度が高いため雨降りだと肌寒い。長袖の服を購入することに。近くにH&Mがあることを確認してそちらに向かう。
だが、チケット購入でイライラした妻はプリプリと早足で、より近くにあるNew Yorkerという店に入った。当のH&MはNew Yorkerからすぐ近くなので、そのことを妻に伝えるも「こっちがいいの!!」とのこと。結局、New Yorkerでお互いに服を選ぶことになった。
私は良い感じのジャケットを購入。期もせずいい買い物ができた。妻のほうに向かうと、ピンク一色の(ダサい)パーカーを購入していた。
それは、NHKで放送していた『ざわざわ森のがんこちゃん』とちょうど同じピンク色であった。私が「それにするの?」と聞くと、「これしか無かったの!!」と怒る妻。早速着用。プリプリ森のがんこちゃん誕生した。

タクシーで移動


がんこちゃんは、「バスを待つのが嫌だからタクシーで早くホテルに行きたい」と駄々をこねた。海外のタクシーといえば、ぼったくりの代名詞である。私が軽く反対するも、結局妻に押し切られる形でタクシーに乗ることに。サングラスを掛けた怪しげなオヤジが我々を迎えた。
いつ遠回りされたり、ぼられたりするか分からない。私はGoogleマップとにらめっこしながら、見ているぞ!というアピールをタクシー運転手へ送り続けた。(見ているぞ!と心の中で念じていただけである)。
特に遠回りされることもなく無事にホテルに到着。ホテルに着くと、がんこちゃんもようやく落ち着いたようでドスンとベッドに横になった。

ザルツブルク音楽祭


この日は『ザルツブルク音楽祭』の開催日。私たちが購入したチケットの演目は『オルフェオとエウリディーチェ』というオペラ。全く内容を知らなかったので、妻からあらすじを教えてもらった。
ドレスコードがあるため、私はスーツ、妻はドレス。ただ、バス移動中は私以外にスーツの人が見当たらず、本当にこれであっているのか内心冷や冷やした。会場付近になるとようやくスーツの人たちを発見。ホッと一息。私はちょっとしたことでも心がザワザワするのである。
 
エントランスに入ると、スーツとドレス姿の人に溢れていた。映画で見る「ザ・パーティ会場」の雰囲気だった。非日常の風景に落ち着かない。
開場まで待っていると、一人の老婦人が「japanese?」と声をかけてきた。上品な服装で、いかにも上流階級という雰囲気であった。
「ニホン、イキマシタ」と気さくに話しかけて下さり、写真も見せてくださった。日本語は話せないと言っていたが、「ギョクロ」「ギンカクジ」等、知っている日本語を楽しそうに話されていた。私たちもgoogle翻訳と拙い英語を駆使しながら束の間の交流を楽しんだ。
せっかくなのでお互いの携帯で写真を撮ることに。婦人は私の肩に手を回したが、私は婦人の身体に触れるのは良くないかもしれないと考えて、両手で自分の股間を隠すような体制で撮影をした。写真を確認すると、笑顔で尿意を我慢する男と女性が写っていた。開場が知らされ、婦人に別れを告げて入場。いよいよ開幕である。

オペラ鑑賞


オペラが始まる。舞台は10段の階段が設置されただけのシンプルな作り。シーンとした薄暗い空間。独特の緊張感の中、舞台袖から10人の男女が登場。
言葉を発することなく、階段を昇ったり、降ったり、寝転んだり、転げ落ちたりしていた。開始から数分経過。まだ誰も声を発せず、階段を昇り降りしている。〈なんだこれは…〉前衛的な表現に私の感性はついていけなかった。
 
ふとこの光景をどこかで見た気がした。吉本新喜劇、島田珠代の「この階段、険しぃ~」というギャグである。急激にこみ上げる笑い。グッとこらえる。こんなことで笑うわけにはいかない。しかし、笑ってはいけないという思いが余計に笑いを誘った。
私は目を閉じて落ち着くことにした。スーッと深呼吸して目を開ける。ちょうどその時、島田珠代と同じ動きをしている演者が目に入った。「ククッ…!」肩を震わせる私。妻は半笑いで「笑っちゃダメだよ」とたしなめてきた。笑ってはいけないのは重々承知だが、10人の島田珠代が「この階段、険しぃ~」を繰り広げているのだからどうしようもない。
ただ、救いもあった。笑いをこらえているのは私だけではなく、斜め前の若い女性も肩を震わせていたのだ。高貴で前提的な表現が分からぬ愚か者はこうなるのである。永遠と思われた無言の時間が終わり、いよいよ本格的なオペラが始まった。

あらかじめ妻からあらすじを聞いていたことと、英語の字幕があったため、内容は理解できた。物語が進み、どんどん引き込まれていく。非常に素晴らしいものであった。
ただ、一つ文句をつけるならば、終演後の拍手が非常に長かった。手が痛い。演者が舞台袖に去ったと思ったら、またひょっこり顔を出して拍手が続く。舞台袖に去って、終わりかなと思ったら再びひょっこり。『はい、ひょっこりはん』が数回続く。「まだ拍手するの?」と妻を見たが、妻は慣れっこのようで夢中で拍手をしていた。私に上流階級の楽しみはまだ早かったのかもしれない。

ザルツブルクのマリア様


さて、良いものを見たと帰りのバス乗り場に向かう。ちなみにバスで帰るのは我々くらいで、他の人たちは会場の周りに待機したリムジンやタクシーに乗っていた。バスのチケットを券売機で購入。時刻表を確認すると25分ほど待たなければならなかった。
こうなると、不機嫌になる妻。がんこちゃんはすこぶる寒さに弱い。25分待たなければならないと分かると「タクシーで帰りたい」と駄々をこね始めた。ひと悶着後、タクシーを探すことに。だが中々捕まらない。「やっぱりバスでいい!」がんこちゃんが言ったため、再びバス乗り場に。
またしばらくすると「やっぱりタクシーがいい!」と言い始める始末。気が長い私も、いよいよ腹が立ってきた。険悪なムードのままタクシーを拾うため、会場の方へ引き返す。すると、先ほどの婦人に遭遇。
 
「very fantastic!!(めっちゃ素敵!!)」等、分かりやすい英語で我々にオペラの感想を話してくださる婦人。我々も拙い英語でオペラの感想を伝えた。そして、つい先ほどまで喧嘩をしていたこと、婦人に出会えたおかげで笑顔になり、仲直りができたことを伝えると「良かったわね」と笑顔で仰った。
婦人は「大学で講演をするためにこちらの方に来ているの」ということだった。どうやら有名大学の教授のようだった。なんともステータスの高い人を捕まえて、馬鹿な話をしてしまったものである。あっという間に時間が過ぎ、バスの時間となった。仲直りをさせてくださった『マリア様』に笑顔で別れを告げ、我々はバスに乗り込んだ。

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