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読書日記

最近読んだ本⑩ 
~ハン・ジョンウォン『詩と散策』~

 この本は詩人のハン・ジョンウォンさんが書いた25のエッセイ集になっています。📕✨
『詩と散策』というタイトルにあるように、作者が散歩をしながら思い浮かべていることや言葉なども書かれていて、作者の頭のなかを覗かせてもらったような、不思議な気持ちになります。
詩人の方が書いているからか、一つ一つの言葉選びが丁寧で繊細で、優しい気持ちになりたいとき、心を落ち着けたい時に読むのに向いていると思います。

①好きな話

「国境を越えること」

私はきっともう以前のように未来を楽観視したり、心を開いて人を愛することなんてできないだろう。
(中略)
でも、日陰にいながら陽だまりを眺める人、
自分だけの陽だまりがあることを知っている人、
陽だまりから離れてもぬくもりを信じる人にはなれそうな気がした。
そのとき気づいた。私は国境に近づいたのだと。
一つの冒険が終わろうとしていた。

『詩と散策』

 これは作者が悲しみで言葉を出せなくなってしまった時期の話だ。そのころ作者は地下室でパントマイムを習っていたが、ある時誰かがスプレーで書いた陽だまりの絵を見て、
"暗闇にいても陽だまりが見える"とほんのり希望を感じたそうだ。

陽だまりは太陽の当たる場所のことだけではない。
不安な状況でも未来を信じること、自分や他人を信じること、人の温かさや優しさを感じること、誰かを愛し愛されることなのかなと感じた。
つまり、陽だまりとは希望、期待、光、愛、自信などを指すのかなと。
作者が悲しみを「冒険」と表現しているのも素敵だと思った。悲しいとき、やるせないことがあったとき、現実が苦しいとき、その苦しさを冒険だと思ったら気が楽になるのかもしれないと思った。
人生は冒険だと思えば、いつかその悲しみ、苦しみは乗り越えられるし、その先にはもっと面白い場所が待っていると信じられると思った。


「永遠の中の一日」

私は、どうしても「永遠」のほうに気持ちが傾いてしまう。(中略)
心臓が鋼でできていない限り、一日しか存在しない愛に堪えられる人はいないだろう。
だから愛なんてつまらないとわかっていながら、「永遠」で包みこみたいと思う。

『詩と散策』

 この話では作者は人間は永遠という時間を持てないにも関わらず、「永遠」や「持続」に憧れると
述べている。

引用したところは自分の好きな部分だ。
人間関係も自然の美しさもいつか終わりが来るし、その時の感情もずっととっておくことはできない。
でも、私は永遠を信じている。
疎遠になってしまっても当時感じた気持ち、共に分かち合った優しさや愛は0にはならない。
楽しかった会話、心がじーんと暖かくなった瞬間、少し汗ばんで疲れた体、砂の匂い、心地よく吹いた風、風に揺れる緑の木々、太陽光に当たった枯れ葉が金色に輝いていたこと…。
たまに思い出すともうあの日々はないのに、心がぎゅっとなって切なくて。
でもそんな幸せがあったから、またいつかあるかもしれないから頑張ろうと思えて。
現実や未来に不安も残っているから現実逃避なのかなと思っていたけど、愛なんてくだらないけど永遠で包み込みたいという部分に勇気をもらいました。

②好きな表現

自分の好きな言葉や美しいと思った表現を引用します。

寡黙な川とは裏腹に、海はとかく騒がしかった。私のところに走ってきては、足首をとらえた。
川は私をひとりぼっちにしたけれど、海はそっけない私のそばにやってきては声をかけてくれる、とても優しい友達だった。
海は私を笑顔にする。

『詩と散策』

ただ見守り、沈黙することが私にできる唯一の慰めなのだ。

『詩と散策』

お元気でしたか?ずっとお見かけしませんでした
けど……。
ちょっと体調を崩していて……。
(中略)
本当に言いたかったことは省略記号の中に隠れ、
夕明かりに埋もれた。

『詩と散策』

曇りの日はあらゆるものが落下する。
鳥は羽を落とし(低く飛び)、雲は雨のしずくを落とし、人は気分を落とす。

『詩と散策』

私にとっての真実と、彼女にとっての真実が違う
とき、それをどう伝えたら誰も傷つかないですむのだろう。
しばらくそんな思いに耽っていたが、私は沈黙するほうを選んだ。そして彼女と並んで座っていることにした。暗い井戸のような布団の傍らで。
私にとっては昼で、彼女にとっては夜の時間だった。

『詩と散策』

その人は私がそこに着くまで目を逸らしませんでした。ふつうはきょろきょろしますよね。なんとなく気まずくて。
ひとりを長く見つめられる人は、心が身軽で、それでいて堅固なんでしょう。(中略)
それからは私も誰かを待つとき、そのときの穏やかな目を思い出しながら姿勢を正します。
揺らいではいけない、と自分に言い聞かせながら。

『詩と散策』










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