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#056 おっちゃんの聖書

旅の話の続き。

トコピヤの街を出発する日の朝、荷物をまとめて意気揚々と出発しました…といきたい所ですが、現実はそんなにうまくいかないものです。

その日ホテルで朝ご飯を食べたあと、出発しないとなと思いつつもなかなか体が動かず、ボーっとする時間を過ごしていました。今まで頑張ってきた運転手が一度休むと動かなくなる、という話を思い出し、その言葉の暗示にかかったようでした。

午前中何をするでもなくホテルで時間を過ごしていると、それを見ていたホテルのおっちゃんが、いいお喋り相手が見つけたと思ったのか、いろいろ話をしてくれました。

「この近くにいる”ビチュー”という虫に気をつけろ。大きなハエのようなもので、飛び回ることはないが、刺されるとお腹を下すぞ」
「チリの南の方では雨が降り始めたぞ。大丈夫か」

ホテルで昼ご飯を食べ、ロビーのソファで昼寝までしていました。昼寝から起きると、さすがに「こりゃいかん」と思い直し、やっとの思いでホテルを出ました。


一度、歩きはじめると、歩みはそれなりに進むもの。次の大きな街アントファガスタまでは約190kmあり、海岸線の道が続きます。

次の日、周りが砂漠に囲まれた海沿いの道をいつものように歩いていると、向こうから一人おっちゃんが歩いてきました。
「こんな砂漠の中を歩くなんておかしいんじゃないか」と思ったのですが、それはお互い様。

そのおっちゃんは、14年間チリをあちこち歩き回っているチリの人。かばんは小さく20kgほどで、一日50km程度歩いているとのこと。確かに、荷物をコンパクトにして歩き慣れれば、できなくもないかなと思ったり。
そして、何より旅が大好きそうでした。聖書を持ち歩き、夕方になるとそれを読むのが日課であり、聖書を読むことで、神様と自分とが対峙できるとのこと。聖書を解釈するために歩いているようでした。


歩いているおっちゃんにとっての聖書のように、好きなものや心安らぐものを携えて歩くことが幸せなことだなぁ、とふと心をよぎりました。自分にとっての「おっちゃんの聖書」は何か。
自分には今ギターがある、と思い直し、その日の夕方一人ギターを弾いていました。

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