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小説 のだくん5

苛められっこが格闘技を始めるのは、勇気のいることだ。何故なら弱いからだ。強い者を決めるのが戦いである。その戦い方を学ぶのが格闘技である。弱い者は負け続けるものだ。そもそも格闘技とは、最も理不尽なスポーツなのかもしれない。
しかしのだくんの格闘技の情報量は乏しく、アニメの戦いしか想像できなかった。
友達のお誘いでスポーツチャンバラにも行ってみたが、ゴムの剣で叩きあうこの競技は、不良に復讐する為の喧嘩には不向きだった。

のだくんの一族は柔道一家である。
父は柔道の黒帯だし、親戚の叔父さんなんて柔道5段である。母方のお爺さんは、戦争さえなければ柔道でオリンピックに出れる逸材だったという。のだくんにとって柔道を見学することは必然だったかもしれない。
しかしスポーツチャンバラと違い、怖い大男が怒鳴りあい、悲鳴を上げながら練習する殺伐とした雰囲気は、2年間ひきこもりにはきつかったようだ。

道場の帰り道。ああもう自分は、ダメかもしれない。
そう思った。弱い人間は一生苛められ続けられなければならない。と諦めかけたその時、ボクシングジムが目の前広がった。
軽快な音楽と自由な練習風景。
リングを囲んで縄跳びやサンドバックを叩く音。自分が苛めた奴など到底かなわない、強そうな男の集まり。
やってみたい。ボクシングを。そう思った。
怖いと思ったが、ジムがフィトネスクラブだけあって気楽な雰囲気もあった。みんなが平等な感じで上下関係のような柵はなく、ただひたすらに強いものがヒーローになれる世界だった。
だから勇気さえだせば、中学のガキもファイターとして認めてもらえる。
その日にジムに入会した。

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