とうらぶ歌舞伎のチケットはなぜ炎上したのか考えてみた

はじめに

 アクセスいただきありがとうございます。広く浅く観劇と刀剣乱舞が好きなしがない会社員です。とうらぶ歌舞伎のチケットの炎上をうけて考えたことを整理するために書いてみようと思います。

 今回の炎上の経緯は

①刀ミュ/刀ステの観客のうち、どちらかというと「刀剣乱舞」というIPそのものを目的としている層が

②いつも刀ミュ/刀ステのチケットを確保するときの感覚(実はこれがかなり独特) でチケットを取ろうとしたところ

③歌舞伎の席のはけ具合、歌舞伎ファンのチケットの取り方と著しく相性が悪かったことが明るみに出て

④ 刀ミュ/刀ステファンがすでに何枚もとうらぶ歌舞伎のチケットを持っていることを知らずに「この席取ればいいのに」と言った歌舞伎ファンに煽られたような気分になってしまった


という感じかと思います。

 そしてこの炎上でしばしば見られる「事前に調べなかったのか」という意見について、個人的には不毛だなと思っています。
 たどり着いた購入手段で、申し込みの最終ボタンを押す前に読むべき事項(今回の場合、たとえば刀ミュ先行では桟敷席の販売はなくぴあでのみの取り扱いということは記載がありました)を読んでいないのは自己責任かと思います。一方でひとくちに「観劇」「チケット取り」といってもジャンルや各ジャンルごとの文化が無数にあります。
 あるジャンルとあるジャンルがはじめて出会った時に、どちらか一方の文化を隅まで調べ上げろというのは酷な話です。そう思った人が製作委員会にいるから刀ミュ/刀ステ先行が行われたのだと思います。

 また、席によってもっと細かく値段を分けてほしい(と私も常々切実に思っていますが)ですとか、運営こうしてくれ!みたいなことは書きません。きっと刀剣乱舞ファン側はこういう認識だったんだろうな、歌舞伎ファン側はこう思ったんだろうな、といったことを書いていきます。松竹やニトロプラスなど売り手側の立場、意図にも特に言及しません。あくまで私個人の経験と観測範囲のみで考えたことですので、それは違うのでは…?と感じられる部分も多々あるかと思いますがご容赦ください。

 ちなみに私のステータス紹介として、直近現地で見た演目とチケット入手のために定期的にお金を払っている組織を記載します。

見た演目
・ミュージカル刀剣乱舞「花影ゆれる砥水」
・セトウツミ
・宝塚雪組 ライラックの夢路/ジュエルドパリ
・マチルダ
・團菊祭五月大歌舞伎 昼夜両部

お金を払って入っている組織
・ミュージカル刀剣乱舞公式FC
・刀剣乱舞出演者・有澤樟太郎さんのFC
・宝塚友の会
・四季の会
・アミューズモバイル
・梅芸ネット会員
・エルアンコールカード
・SUIファンクラブ

という感じです。なんとなく観劇の傾向や各ジャンルへのこめり込み度、どんなサイトを利用して情報を集めたりチケットを取っているのかわかっていただけるかと思います。
 あとはチケットの優待枠がある年会費無料の有名なクレジットカード3枚を日々の買い物に利用しています。

 また、刀剣乱舞についてはアプリ版リリース後しばらく経ってからはじめて、ゲームをゆるゆると遊んでいます。活撃映画、待ってます……
 2.5次元には長いこと触れておらず、2018年の紅白歌合戦に出る刀剣男士を「お、おうw」と思いながら眺めていたのですが(ごめんなさい)、コロナ禍の無料一挙配信であれよあれよとハマってしまいました。幸せなことに、もともとゲームやアニメで好きだった男士のキャストさんのお芝居をとても好きになれて、キャストさんご本人の外部での出演も追いかけるようになったタイプです。
 コロナ禍直前にちょこちょこ観劇にハマり、社会人になって自分で自由にお金を使えるようになったのがここ2、3年のことなので、それ以前のチケット事情には疎いです。

 ここから細かく前述の①〜④について見ていきたいと思います。

①刀ミュ/刀ステの観客のうち、どちらかというと「刀剣乱舞」というIPそのものを目的としている層が

 刀ミュ、刀ステの観客は大きく2種類に分けられるかと思います。

1.刀剣乱舞というIPにウェイトを置いて追いかけている人

2.出演者にウェイトを置いて追いかけている人


今回とうらぶ歌舞伎のチケットを刀ミュ/刀ステ先行で取った人はおそらく1.の方が割合が高いんじゃないかと思います。

2.にあたる人は好きな役者を追いかけた結果、次のような経験をしたことがあるかと思います。

・席が余っている舞台のチケットを予想以上に取れてしまった

・2.5次元以外、つまり東宝、ホリプロなどが主催する興行のチケットがどこで取り扱われているかを調べた  


 「東宝ナビザーブ」や「ホリプロチケット」がどんなものか知っている人は「チケットweb松竹」や「松竹」の名前を知らずとも、今回のとうらぶ歌舞伎にも「チケット発売の親玉」的なサイトがあることに勘付きやすいのではないでしょうか。イープラスやぴあで販売期間が終了したチケットがナビザなどに集約されて開演直前までとれる状態になっているのを見たことがあるかと思います。

 では、刀ミュや刀ステの公演のチケットを取る時、「チケット販売の親玉」らしき会社の名前はどこで見かけられるでしょうか。

 刀ミュを制作している会社はネルケプランニング、刀ステを制作している会社はマーベラスといいます。
 刀ミュ、刀ステに関わっている会社はさまざまあります(刀ミュの例だと、CDなどはユークリッドエージェンシーから出ており、現地で買うグッズのレシートにもユークリッドエージェンシーの名前が入っていた気がします。刀剣乱舞のIPを管理するニトロプラス、ゲームや配信や通販の場を用意しているDMMなどはみなさんご存知の通りです)。
 刀ミュ/刀ステの観客はさすがに全員ネルケプランニング/マーベラスのことを知っていると思うのですが、東宝やホリプロ、松竹に比べてネルケやマーベラスのことを意識させられることが少ないのです。

 ネルケナビザーブ、ネルケオンライン、ネルケチケット…的なものがないのです。

 一応「ネルケハ」「マーベラスメンバーズ」という主催者の名前がついた場所が行う先行(キャストFCと同時期か前後とかだった気がします)もあるのですが、これはあくまで会社の名前がついた会員組織(無料)です。イメージとしてはアミュモバとかに近いのかな…?その会社が関わっている作品のチケットに応募できます。

刀ミュの場合、チケットはだいたい

・刀ミュ/刀ステ公式FC
・キャストFC
・エルアンコール
・プレリク
・(ない場合もあるが)劇場先行
・一般発売

の順で行われます。上記の先行はキャストFC以外全て刀ミュ公式HPに載っています。

銀河劇場などの劇場先行以外は全てローチケのページに飛ばされ、そこから申し込むことになります。刀ステも細かくは異なる部分もありますが、大体同じような感じです。

 つまり、「チケット販売の親玉」が見えにくい、なんならローチケに見えるという、刀ミュ/刀ステに馴染みのない人から見ると不思議な現象が起こっているのです。

②いつも刀ミュ/刀ステのチケットを確保するときの感覚(実はこれがかなり独特) でチケットを取ろうとしたところ


 前述した刀ミュ/刀ステのチケットを取る際の先行では、席区分(会場にもよりますがS/A/注釈S注釈Aなど)のみ選んで抽選に申し込むことになります。

 一般発売も、注釈付きでない席を取ろうとすると
とにかく席区分を選んで他の人が確保しないうちに決済まで進むことに集中することになります。

 東宝ナビザーブやホリプロチケット、そしてチケットweb松竹でも見慣れた○△×の書いたカレンダーもしくは縦に並んだ公演日時のリスト。あんな感じのものを、そういえば刀ミュ/刀ステのチケット確保のプロセスであまり見かけません。

 さらに言うと、「座席ブロックを指定する」とか「座席を選択する」といったボタンを見つけた記憶はないに等しいです。

 ローチケにも、青地に○、黄色地に△、グレー地に×もしくは-と描かれたカレンダーはあります。刀ミュ/刀ステのチケット販売の際もです。
 ステアラで3ヶ月にわたって行われた刀ステの天伝、无伝以外であまり○や△も書かれたカレンダーをじっくり見た記憶がありません。ほとんどグレー地に×や−のカレンダーの記憶なのです。

 また、仮にカレンダーで○や△に出会えたとしても、その先に座席表はありません。枚数を選んで決済です。

 一方のチケットweb松竹は会員登録やログインをしなくてもどの席種に空席があるか教えてくれる比較的親切な設計な上、ブロックを選んで買う/席の番号まで選んで買うことができる、というかそれが普通です。

 ここに大きな乖離があるなあ…と思わせられます。

③歌舞伎の席のはけ具合、歌舞伎ファンのチケットの取り方と著しく相性が悪かったことが明るみに出て

 歌舞伎のチケットは、値段にこだわらなければ、突然「明日歌舞伎を見にいきたい!」と思ってもチケットを取ることができる場合が多いです。3等席はほぼ常連さんですが、1等が埋まっている公演はそうそうない気がします。

 私は年始に松也さんの「新春浅草歌舞伎」を見に行ったのですが、チケットをとったのは本来見に行くはずだった宝塚星組の「ディミトリ/ジャガービート」が急遽中止になってしまったあと、観劇の2日前くらいでした。

 また、FFⅩ歌舞伎は公演期間中の評判の高さで後半にかけて売れていっていました。私自身も開幕してからの評判を見て取りました。

 歌舞伎以外にも、劇団四季や東宝、ホリプロ系の公演にも、比較的余裕を持って取れる演目があります。
 右近さんや有澤樟太郎くん、spiさんが出ていたジャージー・ボーイズのチケットもものすごく余っていたわけではありませんが、翌週の平日のチケットとかであればとれる状況でした。チームグリーンばっかり複数回見てブラックもみたくなり、「あ、取れる日あるな…」と思った記憶があります。結局都合がつかず行けなかったのですが…

 そして今回、とうらぶ歌舞伎もそういった公演の一つでした。

 一方、刀剣乱舞というIPを今まで頑張って追いかけてきた方々には何度も予約ができない、繋がらない、当たらない…という状況に悩まされた経験が多いのだと思います。

 刀剣乱舞無双の豪華版、足利市での山姥切国広の刀身公開、などなど…

 手に入れるチャンスがあったら飛び付きます。条件や今後のことを考えるのではなくまず今目の前にある機会に目一杯応募しに行く人が多かったのだと思います。まさかそれでのちのち「損した」
ような状況に置かれるとはあまり思わないのも頷けます。

④ 刀ミュ/刀ステファンがすでに何枚もとうらぶ歌舞伎のチケットを持っていることを知らずに「この席取ればいいのに」と言った歌舞伎ファンに煽られたような気分になってしまった

 歌舞伎ファンには、ファイナルファンタジーⅩ歌舞伎でたくさんのご新規さんに出会えたという記憶に新しい良い思い出があります。

 タイミングよくFFⅩの直後の歌舞伎座にFFⅩメインキャストが大集合していたこともあり、「#FFⅩ歌舞伎から古典歌舞伎へ」なるタグもできて、初心者の歌舞伎初体験記が少なからず投稿されていました。

 余談ですが、5月の歌舞伎座の昼の部の1幕、「寿曽我対面」では松也さん、右近さんが曽我兄弟を演じ、莟玉さんも出演されて、友切丸(髭切の別名といわれています)を梅玉さん演じる工藤祐経から曽我兄弟のもとに運んでいました。とうらぶ歌舞伎前のリサーチにもおすすめの公演でした。

 FFⅩ歌舞伎はとうらぶ歌舞伎のメインキャスト、松也さん右近さんが所属する音羽屋の御曹司である菊之助さんがメインの公演でしたし、松也さんもシーモア老師の怪演が大変好評だったため、「FFⅩ知らないけど見に行こう」「とうらぶ知らないけど見に行こう」と思った層はかなり被っているのだと思います。SNS上にいる音羽屋贔屓の歌舞伎ファンは、またきっとたくさんご新規さんの新鮮な悲鳴が聞けるんだ!と楽しみにしていたのだと思います。

 FFⅩ歌舞伎の前説はとっても丁寧でした。見得とはなにか、ツケとはなにか、みんなで見得を切ってみよう、これを覚えて本編も楽しんでね!といった具合でした。歌舞伎ファンの皆さん的には普段歌舞伎を見ない人に対する説明のスタートラインはあそこだ、と思われた方もいるんじゃないでしょうか。

 だから、いい席がまだ空いてることを教えてあげたかった…というのもすごく共感できます。席に関わらず、基本的なことからお伝えしたらきっと誰かが喜んでくれると信じて疑わなかったんだと思います。

おわりに

 チケット取りには「すでにアカウントを持っている使い慣れたサービスから申し込みたい」「席が選べなくてもいいから少しでも安く見たい」「席をこだわって選びたい」「サイト独自のポイントを貯めたりステータスをあげたい」などさまざまな需要があります。情報収集は骨の折れる作業ですが、それぞれの取り扱い窓口にメリットとデメリットがあると思います。

 刀剣乱舞のファンに言いたいのは、席種しか選べない、手数料が高い…などの普段の商売の殿様具合が露呈してしまったのは刀剣乱舞側ではないだろうか、怒るなら刀剣乱舞側にたいしてかもしれない…という部分です。ただし、これはすぐにはどうにもならない問題です。常設の劇場の有無だとか、公演期間だとか、興行に関わる会社の規模だとか、さまざまな要因によって今一番公演を続けていくのにいい形がとられているのだと思います。

 また、歌舞伎ファンに言いたいのは、自分たちが「啓蒙する側」だと思いすぎていないかすこし考えていただけたら大変嬉しいということです。
 SNSユーザーの年齢層の面から仕方ない部分もあるかと思いますが、FFⅩ歌舞伎に関連するタグを見る限り、FFⅩファンが初めての歌舞伎に大して思ったことを投稿している割合が圧倒的に多いように思います。FFⅩは知らなかった歌舞伎ファン、FFⅩプレイしましたか?私も歌舞伎を見た後にソフトを買ってプレイし始めたクチですが、「あー!ここでまだティーダはあのことを知らないんだー!」「この曲はこんなふうに使われてるんだ!」とニヤニヤしながらプレイするのは楽しいですよ。一緒に10月までにクリアしてもう一回配信で見て噛み締めませんか?

(そして実はFFⅩから歌舞伎に入った層と歌舞伎からFFⅩに入った層の年齢分布はあんまり変わらないのでは…?と客席を眺めて思いました。)

 期間限定の興行の場に行って感想をつぶやくのと、日常の中から時間をみつけてゲームをプレイし感想をつぶやくのとでは投稿の数や時期に差がでるのもわかるにはわかるのですが。

 自分たちの好きなものを布教したい、ご新規さんを啓蒙したい気持ちはとっても共感します。一方で、とうらぶ歌舞伎は「歌舞伎が刀剣乱舞を受け入れてあげた」のではなく、「刀剣乱舞と歌舞伎が出会った」のだと思います。もちろん刀剣乱舞オンラインを始めてみた歌舞伎ファンも観測しましたが、どちらかというと歌舞伎ファンが教えてあげる構図のほうをよく見かけます。少し気になっていた部分でした。

 私はとうらぶ歌舞伎がとっても楽しみです。新春浅草歌舞伎で大好きになった莟玉さんがご出演されます。高砂屋のことをもっと知りたくて4月の明治座に行きました。ナウシカ再演のケチャや昨年1月の岩戸の景清で女の子の役は拝見していましたが、町娘としてお義父様と一緒に踊られている姿は本当に素敵でした。お義父様、梅玉さんもとうらぶ歌舞伎でお会いできてしまいます。それに、推しの有澤樟太郎くんと共演した右近さんもご出演されます。きっと楽しい観劇になるだろうなとわくわくしています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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