AI vs 教科書が読めない子どもたち

著書:AI vs 教科書が読めない子どもたち
著者:新井紀子

こちらの本は、話題にもなったので題名を知っている人も多いかと思うが、
私自身、AIでできることはなんなのか?という部分に興味がでてきたので、
衝撃的なタイトルにも惹かれて読んでみた。

・この本が訴えたいことはAIのすごさではない。
今使われているAIという言葉は「AI技術」である、ということにも紙幅をとって説明したうえで、それでもなおAIに雇用が脅かされる未来を著者が警鐘するのは、子どもたちが「読めなくなっている」からである。
まさに書籍の帯に記載された言葉そのままであるが、「読解力がない人間は、仕事を奪われる」のである。

・著者は数学者ということもあり、本著の中でコンピューターは単なる計算機であり、数学が獲得できた言葉は「論理、確率、統計」の3つだけであることを踏まえたうえで、現状のAIはこの3つの言葉でしか人間の言葉を理解できないことを説明している。
そしてここがポイントなのだが、数学には「意味」を記述する方法がない。
このため、AIは文章の意味はできない点に私たち人間の優位性が残る。

・また、著者はAIが東大合格を目指すプロジェクトの指揮をとった過程で、
リーディングスキルテスト(RST)を開発している。これが全国の学生を対象に行われた読解力調査であり、この調査結果が題名を表している。
著者はこの調査の解析の過程で、「ランダム率」という新しい概念を生み出している。
「ランダムに回答したよりもましな受験者が何割いるか」という指標なのだが、AIと差別化しなければならない「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定」などの項目で受験者の4~8割はランダム率以下であったのだ。(=サイコロを振って正解を書くより低い正答率)

・著者はこのプロジェクトの経験とRSTの結果を受けて、最終的に2017年に社団法人を設立している。
目指すビジョンは「中学1年生全員にRSTを無償で提供し、読解力の偏りや不足を科学的に診断することで中学卒業までに全員が教科書を読めるようにして卒業すること」。
ここで本としては結びになるが、自らの仕事を通して得た知見をもとに、新たな問題意識を発掘し、それを解決する方法を考えていく一貫した姿勢には私は胸が熱くなる思いがした。

基礎的読解力を左右する因子は今をもって不明であり、本を読む習慣などもアンケート調査上は相関が得られなかったそうだ。
「読解力がない」といっても「何が原因で読めていないのか」は人によって違うのだ。
どんな風に読んでるか?を言語化することは私もやったことがないし、人にも説明してもらいづらい。
だからこそ問題が顕在化しにくい、ということが読み通してわかったことであり、やはり恐ろしいことだと思った。
自分の子どもが「読める」ようにする、それが親としてできる一番の教育なのかもしれない。

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