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まとまらない言葉を生きる

題名:まとまらない言葉を生きる
著者:荒井裕樹

『言葉が「降り積もる」とすれば、あなたは、
どんな言葉が降り積もった社会を 次の世代に引き継ぎたいですか?』
本をめくった最初、表紙の裏に書かれたその言葉から目が離せない。
私にこの本を薦めてくれた人も、この言葉を引用してくれた。

この本は、「被抑圧者の自己表現」を専門にしている文学研究者である著者による、短い章が連ねられている本である。
私はこの本を読んで、この本をどこに分類していいのかわからなかった。
だけど今の自分に必要な本だと感じたのも事実だった。

そう思ったのは、著者が言葉の大切さを最初に綴っているから。
自分でもこうやってnoteにいろんな思いを書き綴っているのだけれど、
なかなかどうして書くことにハードルを感じてしまうのは、
文字にした瞬間に言葉に重みが出るような感覚があるからかもしれない。
話した言葉は消えてしまうけれど、書き記した文字は「消す」という作業をしなければならない。
心のどこかで苦しく感じていたこの気持ちを、言葉の大切さを説いてくれたことで、明らかにしてくれたのが嬉しかったのだと思う。

この本の中では、被抑圧者(章によって女性だったり、障害のある方だったり、ハンセン病の方だったりする)の言葉や、作品が引用されており、
その言葉が発せられた背景や、意味するところを想像するたびに自分の感情が揺さぶられる。

特に印象に残っているのは、
第四話の「負の感情」の処理費用と
第一四話の「黙らせ合い」の連鎖を断つ。
自分に関係のあることにフォーカスされた章だからだと思う。
(ちなみに第四話では保活のことが、第一四話では自己責任のことが書かれていた。)
それ以外の章には、逆に自分が「知らなかった」「想像できなかった」ことにショックを受けたりもした。

こうやって書き出してみると、私はやはり著者がこの研究活動を続けている理由だと言っていた、
「『川の字に寝る』って言うんだね」
という言葉を重く受け止めたい。
この言葉はハンセン病患者で、70年近くを療養所で暮らした方の言葉だそうだ。
本も読む博識な方であったにもかかわらず、この言葉を知らなかった。
父親もハンセン病患者で、家族とはほとんど暮らしたことがない方だった。

自分は娘たちと川の字に寝ながら、その言葉を反芻する。
家族が川の字に寝てない家庭だってあるだろう、と言われればそれまでだけど、この言葉がない世界を寂しく感じてしまうのは私だけだろうか。
毎日寝かしつけは一苦労だし、(なんなら最近は長女が頻繁に突撃してくるので寝苦しいし!)一人でぐっすり眠りたいと思ったことも
一度や二度ではないけれど。
それでも娘たちの寝息を聞いて眠りにつける夜がこの先も続いていってほしいと改めて思った。
そんな本だった。

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