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光の円-炎の蜘蛛-竜と額を割る5つの球

1996年5月24日(金)
わたしと弟は子どもで、母も若い。母方の親戚たちと墓参りの帰り道のようにぞろぞろ歩いていた。
ごはんにしようということになった(ここまで人の姿は見えなかった)。
気がついたらわたし以外の人たちは、通りから奥まった木立に囲まれた蕎麦屋の座敷で寛いでいた。
わたしも行かなきゃ、と敷地に踏み入れようとした足が止まった。弟の、わざとらしい声がした。
「お母さん、○○ねえさんはあそこにいるよ」と声は繰り返す。
わざとらしくて、無感情に通る声。この声がわたしの弟の声だろうかと考えこんでしまうような声。
でも、そうじゃないとしたら誰の声なの? そっくりじゃない。だけど・・・そうだろうか?
戸惑っていると、母の怒った憎々しげな顔が浮かんだ。
お母さんに捕まったら! 嫌だ!
わたしは逃げ出した。蕎麦屋の中庭というか、裏庭のようなところに出た。斜めに細い道があって、そこを行けば川と平行した道に出られる。明るい座敷を遠目に見ながら、川の方へ行こうか、と行きかけたとき、行った先で死んだほうがましな目に遭うことがわかったので引き返した。
目が覚めた。午前3時20分ごろ。
トイレに行った。
裏切りの声が耳の底で木霊して、目の中で禍々しい映像が目まぐるしく展開するのを寝つけないままに見ていた。
すると、ごく小さいけれども強いエネルギーが凝縮したような光の円が現れ、炎の蜘蛛─巨大な脚─が狂ったように光の円を追いかけた。
次に蜘蛛よりも高温の竜が二匹、光の円を追った。
竜は荒れ狂う波の先端のように激しく、その追う先に光の円はあった。
真っ黒になった。
忽然として光の円が現れた。
わたしは真っ黒の中を通って光の方へ行きたかった。
あの小ささでは、遠いというのもばかばかしいほどの距離だろう。でも、光の世界に出たいんだ。だけどそこは目が見えなくなるほどの光なんじゃないか?
瞬間考えて、次の瞬間には移動していた。信じられないスピード。
それが、光に近づいた途端、光はぼやぼやににじんでしまって灰色が周りを囲んでいた。スピードを保ったまま灰色を通り抜けると、また、真っ黒な彼方に光の円が見えた。急激に落ちこむように進んで行くと、今度も光は灰色が茫洋と広がる世界になってしまっていた。
5回光を目指して、光の世界には出られなかった。
鈍い金色の球が飛んできた。振り子だ。
わたしの眉間を砕く?と思っただけで恐怖は感じなかった。
第1の球の後つづけざまに炎に包まれた球が4つ額にぶつかった。
動悸──

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