大震災

1997年12月23日(火)
関東大震災が起きた。
桟橋で、はぐれた子どもを発見した母親が子どもを抱きしめていた。

関東大震災は既に起こったことだ。わたしたちは時間旅行というものをしていて、「そこ」に居合わせちゃったんだろうか? 振動の記憶をわたしは持っていない。「いま」、逃げている「いま」を知っているだけ。

地下を流れる川の中を歩いている男がいた。半透明の水。
水の中でどうやって呼吸しているのだろうと思った。
彼は何かを引っ張っていた。

逃げ惑う人波の中で、手を失ったはずだったが─それは思い違いだったのか?─失ってはいなくて、手があった人を見た。
倒れている男の子を見つけた男の人が、その子を連れて逃げようとして慌てるふためいていた。
皆、だいたい同じ方向に逃げていた。わたしたちもそれに倣った。とにかく恐くてじっとしていられない。

赤の柩と、黒の柩があった。赤の柩に赤の鎧で身を包んだ女、黒の柩に黒の鎧で身を包んだ男。
死んでいても鎧は苦しいだろうと思った。
そこにいた人たちは、この二人の死で自分たちは救われる、と、ひと安心していた。
それを、バカな、と見ている男がいた。

両方の柩の蓋がずれて中が見えた。二人とも鎧を脱いでいた。にっこり、男はウィンクした。
生きているの?
男は、女を助けられて本望なんだって。

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