移転

1997年11月17日(月)
晴れていた。道は広々として、ビルの街だけど緑もあった。
半ズボンの少年に着いて早足で歩いていた。彼は顔色がとても悪くて痩せていた。髪が真っ黒だった。賢そうに見えた。
左折したら道が高くなっていた。ビルの二、三階の高さ。
右後方に大きなビルが建ち並んでいるのが見えた。ビルは大きいけれど、高層建築ではないので、空が見えて、のんびりとした気分が伺える。
黒っぽい色のビルが、竣工間近とわかった。
「ね、あのビルは何?」
「あれは情報を整理して保存するビルだよ。もうすぐあそこから移転して来るんだ」
わたしたちはその「あそこのビル」へ向かっていて、もうそこだった。
小さくて古いビルがごちゃっと建つ中に件のビルはあった。崩壊寸前だ。
「壊される前に見ておきたかったんだ」と少年はビルを見上げて言った。
わたしたちの頭上に、上半身だけビルから生えているようなガーゴイルたちがいて、一本の重たい帯でつながれていた。
ちょっと恐いようなビルだった。
建物の正面に向かって左側に、真っ直ぐ屋上へつづく外階段があった。
壊されるビルが9時の位置だとすると、移転先のビルは3時。間に十字路。

白黒ニュース映画が目の前に展開した。ビルの改修工事の記録映像だった。ビルは大昔と、それからもう少し後の二度、改修が行われていた──どこを直したのか、わたしにはわからなかった──それから長いこと手入れされぬままきて、近く機能を移転し、容器は壊されることになったことはわかった。

屋上へ行ってみるべきだと、わたしは思った。

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