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お好きでしょ、こんなのも……!?

お嫌いですか、ロボットは?#116 ヒトがやった方が早い、けどね

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週もほんと疲れたわ。

――おや? 今週は急な大阪出張じゃないんですね。間もなく春の大型連休ですから、それまでに仕事を片付けようと大忙しだったんじゃないですか。
 いや、そうじゃないんだよマスター。もう、連休なんて、とっくにあきらめてるよ。そして今週も水曜に、大阪まで行ってきたところだし。あれこれいろいろあって、二週連続で大阪出張だよ。ま、それはそれで楽しいんだけど、そういえば大阪らしいものは何も食べてこなかったなぁ。結局は新大阪駅と展示会場や客先の往復だけで、大阪らしさを感じるのはエスカレーターでの立ち位置が右か左か、駅の看板が分かりやすいか分かりにくいかだけなんだよね。大阪はとにかく看板が分かりやすくて「御堂筋線」って書いた看板を通り過ぎるか過ぎないかで、次の「御堂筋線」の看板が目に入るし。階段の看板なんて全段に「ケロリン」「ケロリン」「ケロリン」「ケロリン」って書いてあるから、ケロリンを忘れようがないんだよねぇ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「新ごぼうの唐揚げ」かぁ、新ってことは、ごぼうは今が旬なんだね。どれどれ、うんたしかに香りが強いんだねぇ。ほんのり甘いのがたまらんねぇ。ごぼうって、実際に料理に使おうと思うと、水にさらしたりとか何だって、手間や面倒くささが先に立って、結局買うにまで至らないんだよね。手間と言えばそうそう、オレたちの仕事の世界でも、こんなものヒトがやった方が早いじゃねぇか!って言われることも多いんだけど。じゃあ、あんたが一日中やるかって言ったら、誰もやりたがらないことが多いんだよなぁ……。


 展示会に出展したり、客先に出向いた時なんかにさ、よく言われるんだよね。こんなものヒトがやった方が早いじゃねぇか!ってさ。展示会じゃ、のべついろんな人が小間に来てくれて、中にはロボットに触る人もいるからあえてスピードを遅くしたり、安全のための停止機能をかなり神経質な設定にしたりと気を遣ってるんだけどね。

 中にはさ、ロボットハンドと握手しようとしたり、ペットボトルを掴ませようとする人もいて、何をするか分からない人って、オトナでも結構いるからねぇ。ロボットメーカーの人やオレたちみたいなSIerなどの専門家からすると、想像もつかないような反応をする来場者って結構いる。

 これがロボットなんかとは無縁で、ショップやカフェなんかの、不特定多数の客が来る店をやりくりしている人の方が、逆に対策を取りやすいのかもしれないね。

 話がそれたから元に戻すけど、囲いのある産業用ロボットだったら、あえてスピード感を示すために作動スピードを速くして、さらに重いものを持たせたりしてロボット本体の性能を際立たせるってこともあるけど。今展示の中心に据えてる協働ロボットは、そもそもそんなスピード性能を持たせていないし、安全策が要らない、つまり安全に共に働く、協働ロボットという点をアピールしてきたからぶんぶん動かす必要が、これまではなかったんだ。

 これはデモの披露なんかで客先に出向いた時もそうなんだ。現場にロボットを入れるというのは最近でこそ現場の抵抗感が少なくなったけど、あなたの隣に協働ロボットを入れて一緒に作業を、って話になると、現場の緊張感や抵抗感がマックスになる。だから、まずは現物を見てみてください、ってロボットを持って行くんだ。

 今の協働ロボットって、小さくて軽いから、それこそ社用車のヴィッツ、今のヤリスの後部座席を倒すだけで、ロボット本体や制御盤などの一式と、それを運ぶ台車まで載せられるんだ。

 で、現場に持って行くわけ、台車に乗せてガラガラと。現場で電源コードに差すだけですぐデモが始められる。便利な世の中になったよねぇ。むかしならそれこそ、振動対策でエアサス仕様にして、積み降ろしのためにパワーゲートが付いた2トントラックを仕立てて、なんてやってたけど、ふだん使っているヤリス1台で済むんだから。

 ごめんごめん話がそれたね。それで現場でデモを披露すると、冒頭の言葉になるんだ。こんなものヒトがやった方が早いじゃねぇか!ってさ。

 言われればその通りなんだ。でもさ、その作業を6時間とか、8時間やらされてる身になって考えてみてよ。物流センターの現場だって何が大変って、歩いて商品をピックアップするのも大変なんだけど、折りたたんだプラスチックコンテナ(折りコン)を組み立てたり、折りたたまれた段ボールを箱にしてガムテープを張る作業なんて、退屈過ぎて長時間続けられないって。

 最近じゃ、自動的に組み立てるロボットシステムも出始めたけど、折りコンの仕様や大きさが変わると、一からセットアップしなきゃならんし、多品種少量への対応なんて、できるシステムは見たことない。通販のアマゾンの段ボールがやたらデカいのは、大は小を兼ねるからなんだ。

 力仕事をロボットに任せるのもそうだけど、つまらん反復作業をロボットにやらせた方がいいんだ。こんなものヒトがやった方が早いじゃねぇか!って言うなら、2台、3台ロボットを入れて、ヒトと同程度の早さで作業をこなせるようにすればいい。疲れ知らずだし、1日24時間、365日休まずに、グチも言わずにぶっ通しで働くんだから。

 現場をどんどん省人化して、受注が増えたら現場を24時間稼働に切り替え、さらに増産することもできるんだ。だから長時間の単純作業こそ、ロボットに任せて現場をどんどん効率化を図っていけばいいとオレは思うんだけどなぁ。
 
 だからオレは、こんなものヒトがやった方が早いじゃねぇか!って言われたらにっこり笑って、じゃああなたがやりますか?って聞いてあげるんだ。もしくは、あなたのヨメにやらせられますか?って。そういう人こそ、他人事だとおもってるからね。だいたいそう言えば、黙って説明を聞いてくれるからね。

――たしかに、力仕事も大変ですけど、地味な反復作業を延々と繰り返すのも辛いですよね。この前もたとえに使いましたけど、風土や組織を変えるのは、若者・バカ者・よそ者なんて言いますから。ロボットだって正真正銘のよそ者ですからね。現場にもいい効果を生むといいですね。まだまだ話は尽きないようですね。今夜もとことんお付き合いしたいしますよ。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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