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イラスト+RT裁判 判決批評

第2部 RetweetのA氏、B氏編

【前 提】

 前提については第1部 はすみとしこ編と共有する。

【概 論】

 第1部 はすみとしこ編 に以下を追加する。

RTの定義について
 何の付加的なコメントも添えない、いわゆる「単純リツイート」は賛同の意であると判決は見做し、不法行為を認定してしまった!そんな事を一裁判官が決められるのか?これはTwitterの標準仕様にかかわるものであり、重大な問題を孕んでいる。
原告が参照した過去の判例は「明確な悪意を含む文字情報」であるのに対して、今回は解釈自由なイラストである。その違いに判決は触れることなく、違法性認定の根拠が曖昧である。

2名の違法性の根拠について
 判決は元ツイートの違法性を認定した上で、同判定に連動する形でRTについても2名の違法性を認定している。しかしながら第1部で述べたように、そもそも蓮見氏のツイートは純然たる「風刺」であり違法性が存在しないと考える私の立場からすれば、この構図に則ったとしてもA、B両氏についても当然、不法行為とはいえない。なかんずく、A氏とB氏は同じRT行為であっても質的に異なるにもかかわらず、判決では差異が考慮されていない。A氏は単に図柄に惹かれた。B氏にはそれよりも深い踏み込みがあるが、イラストのRTで訴訟という前代未聞の衝撃は措いたとしても、B氏代理人が要望したとおり元来、イラスト裁判とRT裁判は分離すべきであった。

【個別の評価】

■ (2) リツイートによる名誉毀損の成否
ア ツイッター において、投稿者がリツイート(他者のツイッター上の投稿(元ツイート)を引用する形式で投稿すること)の形式で投稿する場合、当該投稿者が、他者の元ツイートの内容を批判する目的等でリツイートするのであれば、何らのコメントも付加しないことは考え難く当該投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることなどを明らかにするべく、当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常であると考えられる。(第4 当裁判所の判断 6  争点(2)ア (被告Aリツイートにおける事実の摘示及びこれによる原告の社会的評価の低下の有無並びに原告の名誉感情の侵害の有無)について)

👆 単純RTすれば、賛同の意となると裁判官が断定した個所。

■ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、例えば、前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など、一般の閲読者をして投稿者が当該リツィートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り、リツイートの投稿者において、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当であると言うべきである。

👆 単純リツイートは賛同の意!一般ユーザーは必ずしもこのように捉えているとは限らないし、これはTwitter社の見解を確認したものであろうか。

次にA氏。

(3) ア 被告Aは、被告Aリツイートをした時点で、別件訴訟の存在を知らず、また、原告の経歴も把握していなかったことから、本件イラスト3-1の女性のモデルが原告であると認識できておらず、同女性がアニメ作品の峰不二子を連想させるので、保存目的でリツイートしたと主張する。そして、被告Aは「偽装難民」を取り上げて国内外で賛否両論の声が上がった書籍「そうだ難民しよう!」(甲4)の著者として被告蓮見を知り、被告蓮見について、難民支援が人道的という意見が大半である社会風潮の中で批判や中傷を恐れずに勇気ある表現活動をする者として称賛していたが、本件ツイート3を偶然見て、本件イラスト3-1を気に入ったことからリツイートしたと陳述する (乙ロ4)。
イ しかし、本件ツイート3の投稿以降、被告蓮見のアカウントに本件イラスト3-1の女性のモデルが原告であり、本件性被害に関する内容であることをいずれも認識した閲覧者による多数の応答(リプライ)が投稿されており、賛否の対立が顕著であること(認定事実(1)キ)が認められ、被告Aは、リツイートするに際して、これらのリプライの状況及びその内容を認識していたものと推認することができる。また、被告蓮見は、本件ツイートを投稿した後、本件イラスト3-1と原告の写真等とを並べたツイートを投稿しているほか(認定事実(1)サ)、本件ツイート3を投稿した直後には、インターネット番組において、本件イラスト3-1の女性のモデルが原告であることをうかがわせる発言をしているところ(認定事実(1)ク)、これらの各発言はいずれも、被告Aリツイートより前である。
 以上のとおり、被告Aは、被告蓮見の表現活動を称賛していたことも踏まえると、応答(リプライ)や被告蓮見による上記各発言等に基づき、本件イラスト3-1が原告の主張する本件性被害のことであると認識していたというべきである。 被告Aの前記アの主張は、採用することができない。

👆 ①「被告Aは、リツイートするに際して、これらのリプライの状況及びその内容を認識していたものと推認することができる。」←強引な決めつけ、内心の自由を冒している。クリエーターのA氏が絵柄に注目するのに何の不思議があろう。ツイ民は元ツイのリプライの状況など、毎度まいど確認してからRTしていない!
 ②蓮見氏の「難民~」は、伊藤詩織氏の案件とは別のもの。「難民~」で蓮見氏の人柄に好意的だった(だからフォローしているのでTLに流れるのだろうが)からといって、芸能人のファンクラブでもあるまいし、いちいち一挙手一投足まで追っているはずもなかろう。
 現に準備書面の段階でA氏は原告側の追求を尽く論駁し尽くしており、RTの前後にも関連するツイートは無かった。原告側も初期の段階で論争を停止していた。にもかかわら地裁がRTの意味を独自に定義し、ネット番組を見てもいなかったA氏に賠償を命じるとは!明確な根拠なく、判事が憶測で内心を決めつける暴挙!

次は被告B。

■原告が山口と合意の下で性交渉をしたことなどを内容とする投稿をリツイートしていることも併せて考慮すれば(認定事実(2)イ及びウ)、被告Bリツイートで引用された本件ツイート4の内容は、被告Bによる、本件ツイート4の内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としての被告B自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり、被告Bは、同リツイートの行為主体として、その内容について責任を負うというべきである。(8  争点(3)ア (被告Bリツイートにおける事実の摘示及びこれによる原告の社会的評価の低下の有無並びに原告の名誉感情の侵害の有無)について)

👆 A氏とB氏の違いは、A氏は事件について不知でありイラストの絵柄が気に入ったとの主張。しかも絵柄を「悪意」とは捉えず「魅力」と捉えた点も立証した。A氏は魅力的な人物像であったからRTで保存したのだ。原告からA氏への再反論に対しても逐一論破ずみ。裁判が始まって早い段階でA氏については決着がついている。一方のB氏のほうは「イラストの社会的に意味合いについて理解、賛同していたと受け取ることは可能なので同格ではない。ただし!

■(3) 被告Bは、本件処分、本件議決及び別件訴訟において、原告及び山口の双方の主張が対立していたという状況の下では、原告の主張内容のみならず、山口の主張内容も公共的・公益的に極めて重要な意味を持つところ、被告Bリツイートは、山口の主張内容を被告Bのフォロワーに提供するという意味を持つものであって、本件ツイート4とは全く異なる別個の表現行為であるから、原告の名誉を毀損しないと主張する。
 しかし、 被告Bリツイートが引用する本件ツイート4は、その投稿者である被告蓮見も山口の主張の提供であると位置づけておらず、そのような表示もなく、山口の主張を的確に反映したものであるとも認められない(本件イラスト4-1は「枕営業大失敗」とするものであるが、山口が原告による枕営業の事実を主張するものでないことは、前記3(1)イにおいて認定・説示したとおりである。)
 したがって、 被告Bの上記主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。

👆 ①B氏の主張の「別の表現行為」との主張を全面的に支持する。それゆえB氏は裁判の分離を当初より求めていたが、それについても要求は叶えられなかった。蓮見氏の表現行為とリツイートという行為は、そもそも異なる別個の表現行為である。その根拠はB氏の準備書面の言い分に求めることができる。

②「被告蓮見も山口の主張の提供であると位置づけておらず」←これはそもそも蓮見氏についても不要である点は、先の(その1)で述べたところだが、B氏についても不要であるのは、B氏の行為は(作者の意図がどうあれ)両サイドからの見方をネットの平場に並べる行為だからだ。対立的な見解の提示なのだから、山口氏自身の主張である必要性もない。

③B氏が述べた「作者の意図がどうあれ」は殊更に重要な一文である。裁判長は知ってか知らずか、これをスルーしている。

(1) 被告Bは、名誉毀損については、表現行為が公共の利害に関する事実に関するものであり、 その目的が専ら公益を図るものである場合において、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるときは、違法性が阻却されて不法行為が成立しないと言うべきであるところ、被告Bリツイートは公共的・公益的議論に資する情報を提供するものであるから、不法行為は成立しないと主張する。
 しかし、被告Bは、被告Bリツイートに係る違法性阻却事由につき、上記主張以上に具体的な主張及び立証をしておらず、被告Bリツイートが違法性を欠くと認めることはできない。(9  争点(3)イ (被告Bリツイートに係る違法性阻却事由の有無)について)

👆 上記以上に具体的な主張、立証をBがしていないからNGという個所にムリクリ感が溢れている(笑)元々B氏は「風刺画」という「素材」を提供したのであるから、「素材の提供」以上の主張が必要とも思えぬが、もしもB氏が、これ以上に具体的な主張及び立証をしていたら小田裁判長はB氏の主張を認める余地はあっただろうか。裁判の分離さえ呑まなかった裁判官が?「これしか言ってないから」という弁明は「これしか反論できなかった」と同じであり、踏ん張ってひり出した難癖にすぎない。
 B氏代理人は準備書面で次のとおり主張したのだ。「伊藤、山口の両氏はともに公人である。刑法230条2項に鑑み、”控訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす”のであるから、伊藤氏の主張内容のみならず山口氏の主張内容は、公共的・公益的に極めて重要な意味を持ち、公的表現たる公共的・公益的議論の対象に据えるのに値するものである。被告Bのリツイートは、この公での議論に必要な素材をそのフォロワーに情報提供したものであるからして、名誉毀損には当たらない表現行為である。」。これ以上の何が必要か。
 もしもB氏に更なる主張が必要というのであれば、B氏は控訴審でこの部分を厚めに主張なさればよいのである。