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着物買取専門店バイセルを使った話

昨年春の話になるのですが、着物買取専門店としておなじみの「バイセル」を利用した際の話です。

AM/FMラジオを聞かない人はピンとこないかもしれませんが、バイセルはラジオ界のCMでは車買取のCM、自動車保険のCMと並んでビッグ3と言っても過言ではないところです。

バイセルは「買取額を期待するものではない」ということ(使う前に意識しておくべき非常に重要なこと)


バイセルはCMでは着物を高く買いますと喧伝しております(し、あたかも凄い値段が付くかもしれないような雰囲気で煽る)が、半分本当、半分嘘です。

本当というのは京友禅や大島紬などの有名なブランドもの、人気作家の作品として高く評価されているものなどには別の査定基準が設けられています。

嘘というのは、一般的なご家庭で所有されてきた着物はたいていの場合、そうした高額買取の査定をされるものではないからです。

つまり、広告のように都合のいい高額買取はまず無いと思っていただいて問題ないかと思われます。

(だって、そんな高値になりそうな着物ばかりだったらバイセルに売ろうかって話以前にもっと別の話…例えば茶道の稽古している面々から買取りたいって話が出るとか、美術館に寄贈だとかなんとか…知らんけど…が出てくると思いません?)

先に私の経験例をお伝えしておきますと、箪笥1つ分の着物が合計で4,200円の査定でした。
「買取額を期待するものではない」というお約束をよく覚えておいてください。

着物を着ない私がバイセルを使うことになった経緯


一昨年ごろから義母の老人性痴呆が進んでいき、急激に様子がおかしくなっていきました。
その過程で正常な状態の際に、彼女の自己所有の物件についてや金銭的な面について等の意志を伺っておりました。

自分自身が老い衰えていく(=恐らく寿命も相当に意識したと思われます)中で、自分の人生の終わりを意識して物理的な面での意思表示をしていく。
ご本人の負のエネルギーたるや想像を絶します。当事者本人になってからようやく理解できる感覚なのでしょう。なんと強いことだと、敬意を持っています。

そんな中で、彼女が大事にしてきた着物類の話になりました。
とっておいてもらいたいというものはなく、適度に処分してもらいたい、という話でした。

古い着物を適度に処分するというのは非常に難しい問題です。
まず、着物に対する正しい価値観と審美眼を持っておかなければなりません。

晴れ着や訪問着、振袖、小紋、うちかけ…など???(知ってる単語を並べただけ)を知っておくことはもちろん、着物それぞれをどこで買ったとか、品物はどういう仕立てのものなのかとか、流通相場はどのくらいなのかとか、知っておく必要があります。

めったに着物を着ない現代人にとって、これはなかなかの難易度になると思います。

それを調べたり、自分なりに学習をしたとしても、いざ処分となりますと、この次の段階ではヤフオクやメルカリなどのリユース品市場に自分で出品、取引をしていかなかればならないということです。

しかも、これらのフィールドは出品してすぐに売れるとは限りません。

保管にも非常に気を遣う着物が、すぐには手離れしないというのは、結構な負担になるんじゃないか…ということが想像できるのではないでしょうか。

こうして、義実家の荷物をほぼ運び出した後に、バイセルに連絡を取りまして、担当者の方が義実家へ来られることとなりました。

過剰なまでにコンプライアンスに配慮した対応をしてくださるバイセルの担当者


当日、お越しになられた担当者は二十代後半位の男性でした。
非常に大きなトランクに仕事道具を満載で登場です。

この大きなトランク、タブレット端末とPC端末が入っていました。
他には各種パンフレット・チラシ類や契約書面など。
オンライン環境とスマホでの連絡、査定システムの操作等を行います。
その界隈では非常に有名なようですが、もろDXでした。
ダブルチェック、コンプライアンス重視などは全てオンライン連動です。
買取査定という非常に俗人的な仕事が、システムを介してぶれない様になっています。

バイセルの担当者さんは、現地着、お客様と合流から直ぐに本部(たぶん)と現地着、顧客との合流、査定開始の連絡をとります。

今どこにいて、今から何をやるのかを本部がしっかりと把握しているんですね。
この後の査定額の確認等も併せて、商談中に何度も担当者と本部は連絡を取ることになりますので、よくないスタンドプレイはなかなか発生しないんじゃないかなと思われます(それでも変なことをやる人はやるんだろうけど)。

で、いよいよ買取査定開始!…とはなりませんで、まず会社概要の説明から、担当者の所属やお名前、買取査定に関する説明を受けます。着物界でのブランド物などの高額買取の対象についてもこの段階で具体的な例を写真で見せてもらいながら、でした。
まぁ、見せてもらっても全然詳しくないので「ほーそういうのがあるんですかー」みたいな感じなんですけどね正直。(ガジェットならばまだ多少はわかるのに!)

説明ききましたよ、納得しましたよ、というチェックを用紙に記入させたり等も徹底しておりまして、しかも本部から電話もきて、いま説明ききましたよね、ご納得いただきましたよね?的なヒアリングも電話がかかってきますし、とにかくコンプライアンス重視!!!な姿勢が続きます。

この辺りは安価で買取査定した後で、「言った言わない」になって話が覆らないように、というリスクヘッジも兼ねているのでしょうね。
私は、オーバーなコンプライアンス重視の姿勢は今のトレンドに即した対応であると同時にこれまでに(悪い意味で)様々なことがあったんだろうなぁ…という2つの要素があるよねと推測しました。

個人宅に伺うという商いが、今現在はかくも細心の注意を払う必要があるのだなという勉強になりました。(これだけでもバイセルに頼む価値はあります!マジで!)

貴金属やジュエリー、果てはウイスキーなどの買取査定もしたいバイセル


で、いよいよ買取査定開始!…とは、まだなりません。
次に「バイセルは着物の買取だけじゃなくて貴金属や貴重品などの買取もやっていますよー」という案内が続きます。
この辺は、事前に連絡した際にも、前日にアポイント確認の電話がきた際にも告知されていまして、着物以外も買取しますよってところを緩く、それでいて強く、何度もアピールしているんだなというのが印象的でした。
せっかくプライベート空間に買取査定で立ち入るわけですから、なるべく多くのものを(安価に)買取査定したいですものね。

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少し話は脱線しますが、リサイクルショップなどでは「押し買い」という行為が問題になることが以前は多かったようです。買取査定を希望していないモノに対してもあれこれと理由を付けて根こそぎ持っていっちゃうというやつです。
驚きなのは10年15年前くらいには地上波TVで割と頑張ってるビジネスです!みたいな取り上げられ方もしていたのを覚えています。

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ネットでの評判を見る限りでは、この「着物以外のものも買取査定します」っていうのは割と有名みたいで、着物よりソッチが狙いなんじゃないのかとかなんとか書かれていたりして評判は今一つのようでした。

しかし、三菱マテリアルで細々と貴金属投資をしている私から言わせると、貴金属売買なんて三菱マテリアルや田中貴金属のような専門取扱業者ですら有利な条件でしか交渉してくれないのが常です。
常に動くレアメタル相場というリスク、売買を健全に行えるための確かな財務体質、貴金属を物理的に保管できる施設保有など少し考えただけでも相当なコストがかかるわけです。

しかもバイセルは本来、着物買取で名を成してきた企業。
貴金属やジュエリー等を買い取るといっても、玉石混合な個人の品物を買い取るわけですから自ずとあまり高価な査定は付かないものだろうなというのは理解しておかねばなりません。

つまり、バイセルには着物以外は売らなくてもいいよ、という法則は成り立つのかなぁ?とか考えたりしています(個人の感想です)。

買取査定そのものは丁寧にやっていただいた


着物はよくわからない、という前提で書きますが、生地もくまなく見ていただきましたし、高額査定の案内であったようなタグや文様などの特長があるかないかとか、1枚1枚丁寧に見ていただきました。

一度担当者から査定内容のご説明をいただいた後に、本部に画像を送って査定額のダブルチェック。妥当な査定額であることを現場と本部で二重にチェックするのと、それをお客様に印象付ける狙いがあるとみました。

で、最初に書いた通り、私の義母コレクションは箪笥1つ分で4,200円だったのですが、1点1点の保存状態やノーブランド扱いである根拠などを全て説明していただきました。

これで納得できなければ、買取をお断りすることも可能です。
4,200円は笑える(笑えないけど!)けれど、義母から託された手続きですから賛否を差し挟むつもりは毛頭ございませんでした。

それは、査定していただいた担当者さんの仕事振りに拠るところも大きかったです。

着物の処分とは金銭的な面だけでは測れない側面がある


着物はご存じの通り、かなり高価な品物になります。
特にこだわりなく仕立てたとしても、数十万円はかかろうかという衣類です。

これは現代のファッションと異なり、非常にデリケートな生地をふんだんに使い、オーダーメイドで作る衣類であることや、数年間での使い捨てではなく、原則一生着用できる(どころか、何代も受け継がれていく)ものであることが大きいと思われます。

なので、着物っていうのは価値といい、品質といい、それが着用された場面の重さといい、受け継がれてきた想いといい、なかなか現代のアイテムみたいなあっさりとした値付けはできないなと私は感じるのです。

今回、バイセルから来ていただいた担当者さんは、この点で、義母の着物を最後に託すに相応しい方でした。

あまり詳細に書きますとこの方の身バレにもなりかねないので大まかに書きますと。

なんと、ご実家が代々続いてきた呉服屋!
幼少期より呉服、布地が当たり前にあるご家庭で育ってきたといいます。

着物、特に生地そのものにハァハァするというド変態、感性の高い方ですが、呉服が気になりつつ後ろ髪を引かれるように大学進学で上京、呉服と関係のない学部学科を卒業して、呉服と関係のないお仕事に就職されたそうです。(呉服と関係のある学部学科ってどこなんでしょうね?とご本人が言っていたのが妙におかしかった)

で、仕事上で色々と疑問を感じることが増えてきて、やっぱり呉服に触れる仕事がしたいと改めて決意して(仕事帰りの深夜の公園で決めたそうです)次の仕事も決まっていないのに退職@TOKYO

人口減少で苦しい実家の呉服店を考えもなく継ぐわけにもいかず、それでいて、どうしたら呉服に関われるのかなーと思っていたところ、バイセルを知ったそうです。
バイセルって比較的最近急成長してきた会社ですから、その時まで存在を知らなかったと。
その後転職活動でバイセルへ応募して即転職、と。
そりゃあその経歴、そのバックストーリーならば採用するよね。無職期間は1ヶ月だったそうです。

もちろん、こんなエモい話、本当かどうかわからないですよ?
ただ、彼が着物や反物に触れる手先指先は、確かに一般人のそれとは明らかに違いました。
指が布の表面を滑らかにすべるような扱い方をしていましたね。
私がGUのジャージを畳むのとはわけが違う。

この彼が、1着1着、保管された包みをひもほどくたびに解説もしてくださるんですよ。
覚えている範囲内では

・お義母様は着物の取扱が非常に丁寧、かつ慣れていらっしゃったことがわかる。なぜならば保管の際の和紙の端が全く折れ曲がっていない。一般的にはこんなにしっかりと保管されていない。

・取扱の良さゆえに、どの着物も虫食いや極端な劣化がない。全部綺麗な状態。高額査定になるようなものがないというだけで、モノ自体は非常にいい。

・比較的お値段の高くなる種類の装いだけがごっそりないので、既に処分を進めてこられてきたような形跡がある(これ後で妻に訊いたら確かにそうだと。5年ほど前から親族友人に譲ったりしながら少しづつ数を減らしていたようです。)

などなど。
来ていただいたバイセルの担当者は、今はもう記憶も思考もハッキリしなくなってきた、年老いた義母が健全だった頃の姿の片鱗を、着物から再現してみせたのです。

なお、買取した着物や反物は和物のニーズがある市場、雑貨製造や貸衣裳業界、テナント業などに流通していくとのこと。インバウンド需要も当たり前にある現在、確かに流通市場はあるのでしょう。

担当者は一度役目を終えた呉服や生地が、今求められる市場に旅立って現在のニーズに合った形で受け継がれていく(し、自分も毎日様々な生地を触れられてハァハァできてたまらない!)のがこの仕事のだいご味とおっしゃっていました。

「どれだけ個人的に欲しくとも不正防止のため、絶対に直では入手できないのが残念だ」とも言ってました。
かなりの変態ですね(誉め言葉)。

いま、この事業が急成長していることを考えながら体験するサービス


着物という、査定も値付けも難しい、手軽に流通にも乗せにくいアイテム。
どうしても人の想いが乗りやすいアイテム。
これを、受け継いでくれるニーズがある場所に引き継がれていく。
そういうふわっとした事を整理してくださるのがバイセルのサービスだと思いましたね。

いわば、セレモニーに近い。

正直なところ、箪笥1つ分の着物が4,200円ならばボロ儲けじゃろうとは思いましたよ(笑)
しかし、人手不足の昨今、スタッフを常に確保しておくことすらも競争という社会になった今…和装の審美眼があり、ITリテラシーとコンプライアンス遵守のできるスタッフを抱えて、客先に派遣するだけでも甚大なコストがかかります。

当然、全然商いにならない空振りもあるでしょうし、アタオカなお客様に遭遇する率も決して低くはないと思われます。そうしたリスクを超えて、サービスが成り立って、かつ事業が急成長している。

査定の値付けが受け入れられるならば、今を感じられるバイセルのサービスを小一時間堪能するのは決して悪くないエクスペリエンスだと思いますよ?


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