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【特別編】カミングアウトは「しなければいけないこと」ではありません

このnoteでは、女の子として生まれ、「ちいちゃん」と呼ばれて育ってきたかつての自分。男性として生き、「たっくん」と呼ばれ、福祉の専門家として働いている今の自分。LGBTQ当事者として、福祉の現場に立つ者として、「生」「性」そして「私らしさ」について思いを綴ります。
今回も、「カミングアウト」という行為について私の考えをお話しします。(前回の記事はこちら。)高校卒業を目前に控えたある日、私は、仲良しの同級生に「私が好きになるのは同性の女性」「身体は女性だけど、男性の気持ちで女性を好きになっている」と生まれて初めてカミングアウトをしました。同級生が、私のカミングアウトを受け容れてくれ、「私の存在を否定しない」「私の秘密をほかのだれかに勝手に明かさない」と信じることができたからです。

■いつ、だれに、カミングアウトするかは本人が決めること

トランスジェンダーの1人として、中学生や高校生、学校の先生などに対して、性の多様性について講演をすることがよくあります。LGBTQに属する人の割合がおよそ8%という調査もあることなど、性的マイノリティの存在は実は身近なものなのだということをお話すると、学校の先生の中から「どうすればLGBTQの生徒に、カミングアウトしてもらえるのでしょうか」と質問されることがあります。

カミングアウトしたいと思っている人がカミングアウトできるということはとても大切なことです。でも、カミングアウトは「してもらう」ものではありません、と私は答えています。

カミングアウトは、本人が打ち明けたくなったとき、打ち明けたい人にだけすればいい行為です。いつ、だれに、カミングアウトするかは本人が決めることです。

もちろん、カミングアウトしたいと思っている人が、思うとおりにできるような環境づくりは必要です。「気持ち悪い」「ありえない」など自分と異質であるという理由で相手の存在を否定するような言葉をぶつけたり、打ち明けた内容を勝手に言いふらしたりするような環境では、カミングアウトはしたくてもできません。

ただ、LGBTQの当事者に対して、「カミングアウトさせてあげたい」という気持ちを抱くのは、私はちょっと違うと思います。

このことは、「性」の問題ではなく、例えば、自分の健康や家族関係、あるいは転職や起業など極めて個人的な問題に置き換えて考えればわかりやすいと思います。例えば、大きな病気をした時や、家族を亡くしたり、離婚したりした時、仕事で重大な転機を迎えた時、だれかに話したい、聞いてもらいたいと思うことはあるかもしれませんが、その相手は「だれでもよい」というわけでは決してないはずです。「この人なら」と思える相手に、自分が話したいタイミングで打ち明ける、それがカミングアウトです。

カミングアウトは、LGBTQの人たちが自分の性自認や性的指向を打ち明けることを指す言葉として使われていますが、本来は、自分の秘密を自分から告白する行為を指すものです。自分の大切なことを打ち明けるのがカミングアウトであれば、いつ、だれにカミングアウトするかは本人が決めることであり、「カミングアウトしたらどう?」と周りから勧められるようなものではないことは明らかです。

カミングアウトをするのかどうか、するとすればいつ、だれにするのか。それは本人が決めることです。だから、もしも学校の先生から「うちのクラスにLGBTQの生徒がいたのなら、カミングアウトさせてあげたいです」と言われたら、私は「本人が決めればいいことですよ」と答えます。そのうえで、その先生には、「だれもが言いたいことを自由に言いながら、お互いを受け容れられるクラスをつくってください」とお願いするでしょう。

■もしもカミングアウトされたときは……

むしろ私は、みなさんには、LGBTQの当事者からカミングアウトされたときのことを想像してみていただきたいです。

LGBTQの当事者からカミングアウトされたら、どうか、じっくりと本人の話を聞いてあげてください。本人は話したいことを、自分なりの言葉で打ち明けるはずですから、急かしたりせずに、本人のペースで話をさせてあげてください。

性自認や性的指向に関する言葉を聞いて「あ、きみはゲイなんだね!」とか「それはトランスジェンダーだよ」などと、あえて枠に当てはめる必要もありません。特に思春期では性自認も性的指向も揺れていることがあり、枠に当てはめることに意味がないことがあるからです。もちろん本人が「自分はレズビアンだ」と言っているのであれば、否定する必要もありません。「そうなんだ」と受け止めてあげてください。

本人の言葉に耳を傾けるうちに、きっとその人がどう生きたいか、そして、自分にどうして向き合ってほしいのかが見えてくるはずです。もしも解決すべきことが具体的に見えたときは、その人にとって信頼できるかけがえのない存在として一緒に解決策を考えてあげてほしいです。私は、初めてカミングアウトした時、同級生から「私に言ってくれてありがとうね」と言ってもらえました。その時の私にとっては、これ以上ない言葉でした。

そして、あなたを信頼してカミングアウトしたのだから、聞いたことはほかの人にはどうか秘密にしてください。

よく学校では、本人のカミングアウトを聞いた先生が、「情報共有」という名目で校内のほかの先生に話すことがあるようです。しかしそれは本人の了解を得ない秘密の暴露、アウティングです。カミングアウトされた内容は、カミングアウトした本人の了解なしに他人に明かさないこと。このことをぜひ守ってほしいです。

ここまでカミングアウトについて、いろいろとお話ししてきました。次回は、当事者にとってカミングアウトするのが最も難しい相手である「家族」との関係について、私の体験を交えてお話しします。

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