34年前の教護院⑦クリスマス
私がここへ来たのは、自分が悪いのは分かっているつもりだ。
でも、
それならどうして、
私と一緒に悪いことをしてきた友達は、ここへも、前にいた教護院にも入らなかったのだろう。
ずっと一緒に居た友達。
昼も夜も一緒に遊んで同じことをしていた。
なんで。
私は運が悪い。
納得がいかない。
警察に捕まった回数は確かに私は多い。何故なら私は、誰でもいいから食ってかかりたかった。
とにかく偉そうな大人に反抗したかった。
ただ反対に
誰かにかまって欲しかった部分もある。
警察に捕まっていれば、中学の先生がそこへ、いつもやって来た。
先生の中には、話をよく聞いてくれる人がいた。
いつも聞いて欲しくて、
私は問題も起こした。
馬鹿みたいだ。
そういえば以前、私が入っていた教護院を、何度も抜け出し、
とうとう身を潜める場所も無くなって疲れ果てた時、
自分の家に近づいた。
運悪く母親に見つかり、母はこう言った。
「もう、戻らなくていいようにするから。」と。
家に帰ってきて欲しいと。
私はふとその言葉が、何だか引っかかった。
しかしそのまま鑑別書へとまた、
戻された。
この時、ポン太と逃げた生徒にも会っている。
向こうが2、3日早かったが、お互い
「国立鬼怒川学院送致」が決定した。
私は決定を聞いた時、
親に裏切られたと思い、
強く恨みが込み上げ、数日間ろくに食事も食べようとは思わなかった。
そして気がついてしまった。
そうか、教護院に入るには、
親の許可が必要なのだと。
だから友達は入らなかった。
親が守ったんだと。
あの時の言葉が引っかかったのは、
この事だった。
要するに、私の母は、私を守らなかったのだろう。
そして今ここにいる。
私はずっと運が悪い。
ここでは、「入院」と表現する。
真面目にやって1日も早く、こんな暴力の島から出て、また友達と過ごすんだ。それしか考えていない。
なるほど私は入院するべき病人だ。
….........................................................
「クリスマス」
クリスマス。ここで初めて迎える年末年始。
この頃には私もようやく部屋の3番手。ちょっとだけ自由にできる。
4番手の時は、何をするにも部屋長に付いてきてもらわなければならなかったが、
3番手になると、
面倒見役は2番手となり、
何かしたい時には
「〇〇したいので見ていて貰えますか」と頼み、
少し離れた所から見ていてもらう。
前よりは少しだけ緩くなった。
クリスマスの少し前に、
奥さんがツリーを出してきた。
身長よりも高い大きなツリーを、
皆で飾った。
クリスマスに家でパーティーをするような家庭で育ってはいないが、
小さなクリスマスツリーがあった。
記憶にはそれくらい。
プレゼントを貰ったのかも覚えていない。
クリスマス当日は、
寮全体のクリスマスイベントや、
ケーキを食べたり、ツリーの前で
記念撮影をしたりと、
ちょっと特別なイベントがある時は、先生や奥さんは、
いつもより少し寛大だった。
誰かを酷く怒ることもなく、
それなりに楽しい時間を過ごし、
こんな時ばかりは
時間が流れることを
少し寂しく感じた。
年末年始もそれなりに平和だった。
さすがに、先生家族も穏やかに過ごしたかったのだろう。
まして、冬休みで子供も家にいる。
お正月には餅つきをしたり、
昔ながらの遊びや、
なんとも言えない福笑い。
いつもとはまた違う寮生活が、
少し面白かった。
お正月を過ぎると、本格的に寒くなり、雪も降り始め、
積もると外へ出て雪遊びをした。
何か遊びをしようと、
奥さんが言い出す時は、
機嫌が良い時で、皆も楽しく平和に過ごせる。
私も同じで、奥さんがご機嫌な時は、気分が良かった。
ある日先生が寮の裏側に雪で山を作り始めた。雪かきにしては変だし。
とても大変そうに何をしているのかと思ったら、
学院のイベントで、スキー合宿があるらしい。スキー場での班の割り振りをするためだった。
上級クラス
中級クラス
初心者クラス。
数日間で緩やかな山を作り上げると、
「スキーの練習するぞ!」と言って先生は皆を裏庭に集めた。
「まず手本見せるから」
登りは横歩きでスキー板エッジを立てて、と説明しながら登ると今度は、八の字にして山を滑り降りる。
なるほど。
スキーブーツの履き方、
板の装着方法、
滑り方のイメージや
転び方。
一通りを練習してから、
「一人ずつやってもらうから。」
との先生の言葉に、
待ってましたと言わんばかりだった。
この手の運動に関しては、昔から負けず嫌い。何故か出来ないはずがないという変な自信があった。
いざ私の番。
やってみると難しい!
人生初めてのスキー。
それでも何とか、転ばずに済んだけど、ギリギリな感じだった。
少し練習をいれつつ、
1人2回ずつやって、2回ともクリアした私は「中級クラス」に何とか滑り込んだ。
そして待ちに待ったスキー合宿。
大勢の学院の先生同行のもと、
出かける。
子供達がいるからか、奥さんは行かなかった。
それが一番嬉しい!
奥さんが居なければ、
先生は大人しく、少しのことでは、
怒らない。
初めてのスキー場についた私は、
一面の雪に心踊った。
初心者クラスは、寮長
中級、上級クラスは、普段は学院の学校で勉強を教えてくれる先生が付いた。
「やった!」
寮長では無いことにさらに私は嬉しくてたまらなかった。
そしていざ!
リフトに乗れなかった。
私は何度も転び、リフトへ乗ることすら出来ず、
中級クラスの先生が、私に付きっきりとなってしまったため、
あえなく、初心者クラスに戻された。
先生は、「もっと出来るかと思ったんだけどな。」との一言。
自分自身、こんなにも出来なかった
悔しさもあったが、それより、
中級クラスの若い男の先生に、
腰を抱えてリフトに乗せてもらうほうが、楽しかったのにな。と、
ガッカリだった。
でも、初心者クラスに戻っても、
スキーはとてもたのしかった。
合宿はあっという間に終わり、
寮へ帰ると奥さんへの報告大会が始まった。
あの子がこうした、あーした。
自分がやってしまった事など。
が、しかし、先生同行の旅なので、
後から奥さんが、報告を聞いても、
怒ることは無かった。
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