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夏空のモノローグ Ⅳ

あれは希望ヶ峰学園に入学して少し経った頃だっけ、ダルい説明会やら全部終わって、ようやく遊びに行けるってウキウキしてる時だった。
…面倒事ってのは大体そういう時に起きるんだよな。

「あ、あのー、君、桑田くんだよね?超高校級の野球選手ってウワサの…」

「あ?…なんだヤローかよ、カワイコちゃん以外のナンパはお断りだぜ?」

「ち、違うよ!あの、僕、御園、って言います、希望ヶ峰学園の予備学科生で、今年から出来た野球部の部員で…キャッチャーやってます!よ、よろしくお願いします!」

……あー、そいやあんましちゃんと聞いてなかったけど、"一応"野球やんなきゃいけなかったんだっけか…
どうも希望ヶ峰学園ってのは俺の行ってる本科と、それとは別の予備学科ってトコに別れてて、ほとんどの奴らはそこに居るらしい。

んで、本科の奴らは所謂一芸特化の連中しかいないから個人競技以外の部活が存在してないらしい。
だから俺が野球をする環境を作るためだけに予備学科生から野球出来るやつをかき集めてチームを作ったんだと。
練習設備や監督やコーチは最新鋭で日本最強の布陣を集めたらしい、どんだけカネつかったんだか…
全くご苦労なこって、当の俺が全くやる気ねーってのによ…

「うぃ、シクヨロー、んでよ、御園っつったっけ?俺練習は出ないから!試合だけちょちょいっと出るから後頼むわ、んじゃそゆことでー」

「え、ちょ、ちょっと待ってよ!練習しないって…それで大丈夫なの!?いくら超高校級でも、野球は皆の連携とかもあるし…」

「…御園ちゃーん、俺を誰だと思ってんの?桑田怜恩なの、分かる?俺だけ居れば試合出来んの、勝てるの、オゥケイ?んじゃ」

「え、でもサインとかどうすれば…」

「…はぁ、俺は真ん中にストレートしか投げないからサインなんていらねーの、それとも何?御園ちゃんは俺の変化球ちゃんと受けれんの?そもそもストレート捕球出来んの?」

「それは…一応僕もずっとキャッチャーしてたから真っ直ぐ位は…」

「ふーん、分かった、口で言うのもめんどいから一球だけ投げてやるよ。
…あ、面倒臭がらずちゃんと防具用意してこいよ?俺の球まともに当たったら痛ぇぞ?」

普段ならソッコーでバックレてたけど、この御園ってやつはひと目で分かるくらいお人好しそうなヤローだった、こういうのは逃げると余計メンドクセーんだ。
だから、力で圧倒する、その方がずっと簡単だからな。

「桑田くん、準備出来たよ!
…ふぅ、さぁ来い!!」

「…瞬きすんなよ?来るのは一瞬、だからよォ!」

ヒュォッッ!と風切音が鳴り、ボスン!!!と大きな鈍い音がした、キャッチングをミスった音だ、上手く捕ればパァン!と気持ち良い破裂音がするんだけどな。
案の定、御園はボールを溢して、驚愕の表情でこっちを見ていた。

「く、桑田くん、凄いよ…こんな球僕、受けたこと…ない…」

「理解したか?とりあえずド真ん中構えててくれれば溢してもストライク取ってもらえっから、気にせず座っててくれや、んじゃな、また試合の日に会おうや」

「………桑田くん!僕は諦めないから!絶対取れるようになるから、待っててね!
この球なら絶対行けるよ、甲子園!!」

「はぁ…?甲子園とかゼーンゼン興味ないんすけど…
つーかよ、オメーのこんなレベルで甲子園なんかいけるわけねーじゃん、完封してても俺が全打席敬遠されたら負けはしないけど勝ちも出来ねーんだからな、そんな試合俺は降りっから、疲れるだけだしな」

「…また呼びに来る、今度は桑田くんを納得させるからね!」

…メンドクセー、なんでだ、俺は関わりたくないから付き合ってやったのに…コイツのこと、見間違えてたわ、お人好しじゃなくてバカだったんだな、野球バカ…

嘆息しながら街へ向かう足取りはなんだか重かった、うーん、なーんか気分乗らねーな…
はぁ、やめやめ!女のコ誘ってデートでもすっか!

一瞬よぎった心の靄は、少し膨らんで、また萎んだ…

続く

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