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夏空のモノローグ Ⅶ

汗ばみ、蒸気する身体、響く艷声。

熱を感じるのは一瞬、それすら失われていく様に虚しさすら覚える。

何度達しても自分の思う境地には至れない。
何かを諦めた顔に気付いたのか、怪訝な目をして俺を見る表情は何故か煽情的にすら映る。

目にかかる髪をかき上げ、少し息を整える。
気怠い身体を起こして滑り落ちるようにだらり、とベッドから降り、水を一口飲み、溜息を付く。
私も、と差し出す手にボトルを渡す。

「ねー、どうしたの?今日の怜恩クンったらなんかいつもより大胆、というか積極的?
…アハッ、凄く良かったケド、今日はちょっといつもと違うって感じ?」

「…煩せぇな、なんだって良いだろ、ちっと今日はガッツリ攻めたかった気分なワケ」

誤魔化す様にキスをして身体を乱暴に抱きかかえる。
いつもならアガる筈の気分が今日は無理にでもやらないと続かない。
頭の中でグルグルと渦巻く感情に酔ってそのまままたベッドに倒れ込む。

「ねぇー、やっぱりなんかヘンだよ?ちょっと体調悪いのん?」

「…なんでもねーよ、んー、まぁちょっと最近寝不足なのはあるかな、練習もあるしよ」

練習といっても視線を移した先にあるのは大振りのギター、まだまだ新しいソレは仰々しく壁に立てかかっていた。

「えっ!怜恩クン、ギターなんかできんの!?カッコいいねー!」

「まだまだ全然だけどなー、俺さ、ミュージシャンになろーと思っててさ、パンクロックの、知ってる?ダムドとか、ピストルズとか」

「んー、全然しらなーい笑
なんかの呪文?にしか聞こえないしー、でもでも、ミュージシャンなんてカッコいいー!すごいじゃん怜恩クンー」

「でもムズいんだよなー、ギター、コード進行が云々とか、楽譜見ても全然分かんねー、あーあ、どうせならミュージシャンの才能が欲しかったー!」

「才能かー、私も欲しいなー!
…あ、そうそう、才能と言えばさー、怜恩クンは知らないだろうけどさー、最近予備学科ン中じゃ結構流行ってるよ、希望ヶ峰学園の闇サイトで。新しい才能、作るよー、実験体ぼしゅー!みたいな!
まぁ怪しいからー、基本笑い話になってるみたいだけどー、ジッサイ行ったらしい人がこんな才能出来ましたー!みたいなコト言ってまたスレが炎上してたー、あはは、面白いよねー」

「へぇー、なんか与太話にしてはそこそこ具体的に出てきてんだな、つか希望ヶ峰学園の闇サイトって…割と狭い範囲の話な、案外冗談じゃないんじゃね?」

「んー、私は聞いたハナシだからなー。
てゆーか!怜恩クンは超高校級の野球の才能あるんだからいーじゃん?
別に今でも将来を約束されてるんだからさー?」

「…野球はもういい」

「んー?どしたの怜恩ク…」

「もういい、今日は帰れよ、ちょっと疲れたからさ、また今度な」

「ちょ、ちょっとー、やっぱり今日はなんかヘンだよ怜恩クンー、なんかあっ…ぼふっ…!?」

脱ぎ散らかされた服を顔面に放ってやると、もー、次はもっと機嫌の良いときに呼んでよー!と文句を言いながらもするすると服を着るとバイバイ、と手を振って素直に部屋から出て行った、アホな奴はこういう時に助かるよな…

さて、と。希望ヶ峰学園の闇サイト…だっけか?
興味本位だった、それでも止める、という選択肢は俺には無かった。
兎に角何でも良かったのかもしれない、今はこの気分の混濁を泥でも砂利でもかっ喰らって紛らわせていたかった。
スマホからサイトを辿るとすぐに見つかった。その中からそれらしいワード検索をしていくといくつかのスレッドに行き着く。
…あった、ここからサイトにアクセス出来るみたいだな。
才能が欲しい人、今の自分から変わりたい人は是非ご協力を。
新しい自分になれるチャンスを掴みませんか?詳しい話は以下のアドレスから連絡下さい、診断を致します…?

めちゃくちゃ怪しい、今時こんな謳い文句も珍しい気がする。
…でも正直、今の俺には悪くない話だ。
これ位笑える位がテキトーな感じでこんな俺には丁度いい。
もし話が本当ならチャンスが増えるってのはそう悪い話でも無いし。
違っても女のコとの笑い話に華が咲くしな。

アドレス先に連絡するとすぐにいくつかの質問に答える様、返答が来た。
どうも簡単な診断書みたいなモンだったらしい。個人情報を打ち込む欄は無かったので気軽に打ち込んでいく。

送信、っと…。
送って5分後位だろうか、すぐに受信の音が鳴った。

暇なんかね、と返答を見て目を見開いた。
そこにはハッキリとこう書いてある。
"桑田怜恩様、下記の番号よりご連絡下さい"

…何でだ、俺の個人情報は一切晒してないし、質問内容も俺個人を特定するモノは一切無かったはずだ…

ごくり、と生唾を飲み込みつつ、番号へと電話を掛ける。
興味本位…だけじゃない、今俺は、脚元がどうにも定まっていなかった。
何かが起きるかもしれない、たったそれだけを期待する、そんな危うい思考と共に電話口から声が聴こえる。

「どうも、桑田くんのお電話で間違いありませんか?
私は希望ヶ峰学園提携の研究員、樽崎と申します。
詳しいお話は直接会ってしましょうか…」

…普通ならこんなハナシ、馬鹿馬鹿しくて相手にもしなかっただろう、でも、今の俺は、このどうしようもない現状を有耶無耶に出来るのなら、与太話でも何でも構わなかった、兎に角、この状況から逃れたかったんだ…

…こうして俺は、今、ここに居る。
新しい才能を植え付けられ、新しい自分になった奴等の戦いを見届けようとしている。

それももうすぐ、終わりが近い様だった、俺の燻ぶった時間ももうすぐ、終わる…。

続く

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