夏空のモノローグ Ⅱ
野球をやり始めたのは…なんでだっけ、気付いたらやってたんだよな。
ほら、男ってよくわかんない内にスポーツやらされてるじゃん?そんな感じ。
だから別に俺は野球が好きで始めた訳じゃなかった。
それでも別にキライって訳でもなかったぜ?
思い切りボール投げて三振取るのも、相手の全力の球おもくそ引っ叩いてホームランにするのも気持ち良いしな。
…まぁガキん時は良いんだよな、特になんにも考えなくても良かったし、周りともそれなりに上手くやってた、ほら、俺って陽キャだからさ、コミュ力もあるってわけよ。
…でもまぁ、思春期っつーの?中学上がった位からおかしくなってきたんだよな。
段々俺が打っても抑えてもだーれも喜ばなくなって来た。
純粋なガキから余計な事考え出すクソガキに変わると嫉妬って感情がガンガン湧くモンらしい、つまんねープライドっつーの?ホントにしょうもねーよな。
ま、俺はそんなの一切無かったけどな、だって一番上手ぇから。ダッセぇアイツ等とは違うワケよ。
あぁ、そうそう、先輩後輩とかいうくっだらねぇ決まり事もダルかった。
俺より野球が下手なくせにちょっと早く生まれただけの奴がえっらそうにしてやがる、監督の見てねーとこですぐボール拾わせたり陰口叩いたり、まぁ何せウザいったらなんの。
更にうぜーのはそんなクソ野郎どもにへいこらしてる後輩連中。
金魚のフンみてーについて回っておんなじようにしてんだ、数が多い分めんどくせー。
…まぁそれだけならまだ良かった、実力のある俺にあんまり目立つ事も出来なかったみてーだったから。
ところがアイツ等普段の嫌がらせじゃ足りないのか、あろうことか遂に試合でも嫌がらせする様になってきやがった。
流石に公式試合ではほとんどなかったけど、紅白戦や練習試合とかだと監督にバレねー程度にわざとエラーしたり、キャッチャーはボール溢したり…
明らかに無駄に俺を疲れさせてイライラさせる腹づもりだった。
そうして俺の事を思っても無い言葉で煽ってくる。
マジでウゼぇんだ、あのテキトーに貼り付けた申し訳なさそうな顔も、声も、全部…
ゴメンな桑田、すまねー、ミスったわ、次はちゃんとやるから許してくれよ…ってな
…一応俺は野球に対してはそれなりにちゃんとやって来たつもりだった、なんだかそれを丸ごとバカにされたみてーに思ったんだ。
…だからこいつらが何を思ってこんなクソみてーな事してるか分かんねーけど、仕返ししてやろうと思ったんだ、下手クソなこいつらみてぇに野球をバカにしたくだらねーやり方じゃなくて、ガチの野球で。
周りがチンタラ走ってても、ヒット打てなくても、俺がホームラン打ちゃ勝手に点が入るから良い
ド真ん中にストレートだけ投げて三振取れるならどれだけキャッチャーが溢してもストライクになるからそれで良い、ボール飛ばさせなきゃエラーもさせないで済む
簡単なハナシじゃん、俺がホームラン打って、27人三振にしてアウトにすりゃゲームセットなんだからな。
そこからはめちゃくちゃ嫌だったけど、必死に練習した。
どんなボールでもホームランに出来るパワーもミート力も必要だし、ド真ん中にストレートが来ると分かってても絶対に打たれないボールの速さもキレも必要だった。
絶対にアイツ等に何も出来なくしてやる、それも完膚無きまでに。
気付いたら俺は一人で野球して、一人で勝てる様になっていた。
周りが何をしようが関係ねー、俺が抑えて、俺が打てば試合に勝てる。
キャッチャーだけ座らせてミット構えさせときゃそれだけで充分だ。
そしたらいつの間にか俺は皮肉にもこう呼ばれる様になってたんだ。
"超高校級の野球選手"ってな…。
続く