秒速5センチメートル

まあ確かにキモいなというのが初見時の感想だった。まだ幼かった頃の微かに芽生えた恋心と美しくてロマンティックな離別にずっと思いを馳せている青年というだけでも割とキモいが、なんとなく周りの女性をキープしたり付き合ってみたりしつつも自分の中のロマンチシズムに酔ったアンニュイな感じを醸してるところが本当にキモい。

と、開幕早々悪口で始まってしまったわけだが、別に遠野貴樹がそんなに嫌いなわけではない。キモいと言っときゃいいと思ってない。正直なところ僕はこの手のノスタルジックな思い出に端を発する物語にあまり共感できない。幼少期の鮮烈な思い出は特にないし、そこから夢が生まれてもいない。「人生で最初に観た映画は?」とか言われても覚えてないし多分ポケモンか仮面ライダーだ。もちろん最初に話した女の子とか覚えてない(多分さゆりちゃんかあおいちゃんだと思うけど)。なんで僕はこうも自分の過去に無頓着なのかはわからないが、そんなに劇的な人生でもないのだろう。

さて、第二話で宇宙が登場するコントラストに新海誠を強く感じた。再び出会えるかも、出会えても向こうも待っててくれてるかわからない初恋の人を探す恋路は光のない深宇宙へと旅立つ探査機と重なる。遠野は常にどこか遠くを見据えているようであるが、その実それは過去に置いてきた思い出であり同時に「世界の秘密」なのだ。

いつしか忙殺され、仕事人間となった遠野はその根底にある「力が欲しい、強くなりたい」という目的を見失っていたことに気づく。そして彼は大人になってしまう。幼少期の輝かしい思い出もそれに思いを馳せる自分も、ずっと待ち望んでいた美しい再開も捨て去ってもう一度人生を歩み出す。ハッピーエンドなのかなと思う。ただ前述したように遠野の感情に全然僕は近づけないので、心無いことを言ってしまいそうでよくないからこの辺で終わりにしておく。響く人には響くだろうし、切ないなぁとは思ったがこういう輝かしい過去がなく、これといったオリジンもない人間にはさほど魅力的な物語には映らなかった。

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