消費税 免税事業者 条件まとめ~課税・免税事業者それぞれのメリットをインボイスとあわせて解説~

導入文

2023年3月末登録期限のインボイス制度を受けて、改めて事業者から見た消費税制度に注目が集まりました。
(*最終的に登録期限は9月末まで対応してもらえることになりました。)

今回話題となったインボイス制度の解説を交えながら、消費税免税事業者の条件とそのメリットデメリットを、自分用にまとめました。

これから規模拡大を検討している副業者・個人事業主の方や、消費税の基本を押さえたい方の参考になれば幸いです。

結論:消費税の免税事業者になる条件

最初に結論を述べます。以下の条件を満たす個人事業主や法人は、消費税の納税が免除されます。

①基準期間(2期前の1年間)の課税売上高が1,000万円以下
②特定期間(1期前の前半6か月)の課税売上高が1,000万円以下
③特定期間(1期前の前半6か月の) 給与等支払額の合計額が1,000万円以下
④開業から2年未満(法人は出資金や資本金に制限あり)

①+②、もしくは①+③を満たした場合、あるいは④の場合は基本的に免税事業者となります。

課税事業者と免税事業者には、得意先や仕入れなどの状況によってメリットとデメリットが発生するのです。それぞれについて項目ごとに解説していきます。

事業者から見た消費税とは?

まず消費税の仕組みからおさらいします。消費税は一般生活で最もなじみの深い税金ですが、税金を受け取った事業者から見た場合の消費税制度について概略を説明します。

消費税は間接税である。事業者が肩代わりして納める。

消費税は商品やサービスを購入した際に発生します。税金には直接税と間接税の二種類がありますが、消費税は間接税です。

税金を負担する担税者と実際に税金を納める納税者が分かれており、担税者である一般消費者に代わって、事業者が納税者として税金を納めます。

消費税はそれぞれ国と都道府県に納められる。

事業者が集めた消費税は、それぞれ国に納める消費税と、都道府県に収める地方消費税に分けて納められます。割合は下の表のとおりです。

(*表の画像は筆者による)

消費税の納税額計算方法:原則課税

次に、納税額の求め方を解説します。事業者に課せられる納税額は、基本的に原則課税の計算方法で求められます。原則課税では消費者から受け取った消費税から、仕入れで支払った消費税を差し引いて求めることが可能です。

ある個人事業主について、1月1日から12月31日までの売上が1,500万円(税別)、仕入が1,000万円(税別)であったとします。

計算していくと、売上1,500万円-仕入1,000万円=500万円 となります。

この500万円に対して消費税率10%を乗じた金額50万円が消費税の原則課税における納税額です。

消費税の納税額計算方法:簡易課税

小規模な個人事業主や法人については、よりシンプルな簡易課税制度も利用できます。具体的には前々年度の課税売上高が5,000万円以下である事業者が対象です。

簡易課税制度では、売上時に受け取った消費税に、みなし仕入れ率を乗じた金額を差し引いた金額が納税額になります。みなし仕入れ率は国税庁のホームページに記載があり、例えば卸売業なら90%、不動産業なら40%です。

ある卸売業の法人を例に計算してみましょう。
この法人の1月1日から12月31日までの売上が3,000万円(税別)だったとします。法人は売上に対して発生する10%の売上消費税300万円を受け取るでしょう。この300万円にみなし仕入れ率90%を掛けた金額が仕入消費税額となります。

<計算式>
売上3,000万円×10%=売上消費税300万円

売上消費税300万円×みなし仕入れ率90%=仕入消費税270万円

売上消費税300万円-仕入消費税270万円=30万円 

以上の通り、この法人の納税額は30万円です。

免税事業者の条件

以上の通り、消費税の仕組みと計算方法を解説しましたが、事業者によってはこれらの消費税の支払いが免除される場合があります。この免税事業者の条件を解説していきます。

①基準期間(2期前の1年間)の課税売上高が1,000万円以下

基準期間とは、2期前の1年間を指します。個人事業主ならば前々年度の1年間を、法人ならば前々事業年度の1年間が対象です。この基準期間内に発生した売上高が1,000万円以下ならば、免税事業者となります。

例えば個人事業主の2021年1月1日から12月31日までの課税売上高が950万円だった場合は免税事業者に、1,050万円だった場合は課税事業者となります。

②特定期間(1期前の前半6か月)の課税売上高が1,000万円以下

免税事業者になるには、①の基準期間に加えて、特定期間の課税売上高も1,000万円以下でなければいけません。

特定期間とは1期前の年度における上半期を指します。個人事業主なら前年度の1月1日から6月30日を、法人ならば前事業年度開始の日から6か月間が対象です。基準期間に加えてこの特定期間内の売上高も1,000万円以下ならば、免税事業者となります。

法人によくある、4月1日から翌年3月31日を事業年度としている場合を考えてみましょう。
この法人は、2021年4月1日から2022年3月31日までの売上高が900万円でした。基準期間にだけ注目すれば免税事業者の対象です。
しかし、劇的に売上が伸び、2022年4月1日から9月30日までの売上が1,200万円となった場合、免税事業者となることはできません。

③特定期間(1期前の前半6か月の) 給与等支払額の合計額が1,000万円以下

特定期間の課税売上高に代わって、従業員に支払った給与などを基準にすることが可能です。

もしも②の法人が、特定期間の課税売上高が1,200万円であったとしても、その特定期間に従業員へ渡した給料の総額が1,000万円以下ならば、免税事業者となります。

①に加えて、②か③どちらかを満たしていれば免税事業者です。

④開業から2年未満(法人は出資金や資本金に制限あり)

新規開業から2年未満の法人や個人事業主も基本的に免税事業者です。

これは、①~③で述べてきた基準期間や特定期間が存在しないためです。

ただし、法人の場合は資本金や設立時に受けた出資金が1,000万円以上である場合は課税事業者となります。これは、新規開業した法人が、強い資本力を持つ別企業のグループ会社や、その影響力の傘下であると考えられるからです。

免税事業者と課税事業者、それぞれのメリットデメリット

ここで悩ましいのが、上記の基準期間の売上高が1,000万円に近い事業者や、後述のインボイス制度への登録前の事業者です。このまま売上高を伸ばしたり、あるいはインボイス制度に登録したりすることで、自動的に課税事業者となってしまいます。

免税事業者のままでいる場合と課税事業者となる場合、それぞれのメリットデメリットを解説します。

免税事業者のメリット:益税になる

免税事業者は消費税の納税が免除されます。そのため、本来ならば消費者から消費税を受け取る必要はありません。ただし、消費税の請求が禁止されているわけでもありません。

そのため、もしも免税事業者が消費者に消費税を請求し、受け取った場合、この消費税はそのまま事業者の利益となります。これを益税と呼びます。

課税売上高が1,000万円以下であり、ビジネスモデルがB to Cの一般個人相手の商売をしている場合は、免税事業者のままの方がメリットが大きい可能性があります。

免税事業者のデメリット:インボイス制度の影響で取引を敬遠される・・・かもしれない

2023年10月1日よりインボイス制度が始まります。インボイス制度とは、国が認めたインボイス(適格請求書)のみが、仕入税額の控除対象となる制度です。

インボイス(適格請求書)を発行するには、国から適格請求書発行事業者として登録を受けなければいけません。この登録を受けると、売上高に関係なく課税事業者となってしまいます。

例えば、売上高が100万円、仕入額が60万円であったとします。
この60万円の仕入の請求をインボイス(適格請求書)で受け取った場合、納税額は

(売上高100万円-仕入額60万円)×10%=4万円です。

しかし、もしもインボイス(適格請求書)以外で仕入の請求を受けた場合、仕入税額は控除されず、売上高に対する消費税をすべて納めなければいけません。納税額は

売上高100万円×10%=10万円です。

つまり、インボイスに対応できない免税事業者の取引相手は、これまで免除されていた分の税金も支払うことになります。そのため、インボイスを発行できない事業者は取引を減らされたり打ち切られたりする可能性があります。

免税事業者は、これまで通り免税事業者であり続けて取引先から取引を断られるリスクを負うか、インボイス制度に登録して課税事業者となる代わりに取引を継続できるようにするか、の2択に迫られるのです。

課税事業者のメリット:還付でお得になる場合がある

免税事業者の状況や事業内容によっては、課税事業者となった方がお得な場合もあります。売上として受け取った消費税よりも、仕入で支払った消費税が多い場合、課税事業者は還付を受けることが可能です。

例えば輸出業者などは、仕入の消費税額の方が多くなりがちです。これは、日本で行った仕入には消費税が発生するものの、海外への輸出は免税取引となるので、売上の消費税が発生しないからです。

別の例としては開業初年度に多額の設備投資を行った場合なども挙げられます。仕入税額、つまり設備投資の際に支払った消費税額よりも、売上で受け取った消費税が少ない場合は、課税事業者として還付を受けた方が良いかもしれません。

課税事業者のメリット:インボイス制度が始まっても取引を継続できる可能性が高い

免税事業者のデメリットに記載したインボイス制度の影響に関連して、インボイス制度に登録して課税事業者となれば、引き続き取引を継続してもらえる可能性が高いです。

取引先に法人や個人事業主が多い場合、これを機にインボイス制度に登録し課税事業者となり、税負担が増えた分以上に事業規模を拡大させていくのも一つの手です。

課税事業者のデメリット:納税負担が増える

課税事業者となるか免税事業者となるか悩むのは、年間の売上高が1,000万円以下の小規模な事業者です。もしも課税事業者となった場合、消費税の納税義務は少なくない負担となります。

まとめ

課税事業者となるか、免税事業者となるか、それぞれ基準があるのでよく確認しましょう。自身が課税事業者となるべきか、免税事業者のままでいるべきかは、取引相手や事業形態によって千差万別です。

もしも決断に迫られた場合は自身や取引先の状況にあわせてよく検討していきましょう。

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