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おらおらでひとりいぐものこと

映画「おらおらでひとりいぐも」が、この11月6日に、全国で公開される。私としては、長編9作目となる。
https://oraora-movie.asmik-ace.co.jp

父が亡くなり、実家に帰り、葬儀の準備でバタバタしている最中に、携帯に電話が鳴った。以前からよく一緒に仕事をしているプロデューサーからだった。「こんな時に悪いんだけど、企画があって」。その企画が、「おらおらでひとりいぐも」であった。実家で、母がちょうど一人になったタイミングで来た話である。その物語は、岩手出身の70代女性、桃子さんが、若い頃に上京し、数年前に夫を亡くし、東京近郊で一人暮らしている。その孤独な心の内を東北弁丸出しで描いた作品だ。ちなみに我が家の母は山形出身の70代で、若い頃に上京し、今は、東京近郊に一人で暮らしている。なんだか他人事とは思えなかった。企画が来る前、我が家の本棚に、この「おらおらでひとりいぐも」の本が置いてあるのに気づいた。「あ、これ、芥川賞とったやつだよね?」と私が興味を示すと、「貸そうか?」と母。もう読んだものらしい。「まあ、またあとで」と私はその時断った。そののち、まさか自分のもとへ、「映画にしませんか?」とくるとは。映画の企画は、ごくたまに、不思議な縁を感じる時がある。ひとまず私は読んだ。わからない方言などは携帯で検索しながら。しかし、よく考えれば、私の最新型のiphoneよりも、優秀な翻訳機が目の前にあった。母である。山形なので、岩手とはまた違うのだが、それでもわかるはわかるらしい。母に訳してもらいながら、私は原作を読んだ。

何より驚いたのは、家族構成である。
原作の主人公は、桃子さん、我が家は、真智子さん。
亡くなる夫は周造で、我が家は庄平。
長女は直美で、我が家の姉が直子。
その下の長男が正司(しょうじ)で、私は修一。

全部同じイニシャル。
どことなく似ている発音。
気味が悪いくらい似ているのは、気のせいだろうか。
私は、脚本の段階から、この映画を、どこか自分と重ね合わせ、準備をすることになった。もうそうじゃないと、気がすまなかったのだ。

家の中を、主に撮影所のセットで撮影した。イメージが完全に私の実家だったため、セット内に、我が家が再現されたようなものである。ちなみに映画に出てくる小道具や、美術品などは、実家から拝借したものも結構あった。撮影現場が、住んでいる東京の自宅より、実家の方が近いため、私は映画の撮影のために実家に帰ることが多くなった。

撮影所にいくと、嘘の我が家があり、桃子さんがいて
家に帰ると、まるでセットのような我が家と、桃子さんではない母がいる。
どっちがどっちだか、わからなくなる。
なんとも不思議な撮影だった。

つづく。

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