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#15 もじくんのオーディション

さて、この映画に出てくる、もう一人の若者。それは門司(もじ)くんである。門司くんは、書道部で、絵も上手。繊細だが、内に秘めた力強さも持っている。さて、一体この役を誰がやればいいのか。美波と同じように、こちらもオーディションで選考することにした。美波と同じように、こちらもオーディションで選考することにした。

募集をかけたところ、まず、書類が2万通ほど届いた。そこから、だいたいざっと目を通して、軽く1万人くらいにふるい落とす。そして、その1万人に、今度は東京ドームまで自費で来てもらい、そこで、全員で鬼ごっこをしてもらう。まずは俳優としての俊敏性を確かめるのだ。我々は、放送席から、オペラグラスをして、その様子を、蟻のようだ、とよだれを垂らしながら、見る。一般的には、そこで、だいたい、5千人くらいに絞られる。

そのあとは、頭上から、ヘリで数千枚のクイズを撒き散らし、その紙を拾い、そのクイズに答えられたものから、合格としていく。残ったのは、15人ほどになるだろうか。

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そこからは、よくある方法だ。一般的な映画のオーディションの場合、まずは、バス二台分くらいの大きさの生活環境に、彼らを押し込み、待ち時間でのストレスの耐性を見ることになる。俳優は待つのが仕事だ。施設内には5台のテレビカメラがあり、別室から24時間監視される。外出はできないし、スマホなどの電子機器は持ち込めず、情報は制限される。食事は宇宙食をイメージした保存食中心となる。作業にはグループ課題と個人課題があり、グループ課題では、主に国際的な討論や、ロボットの作成。個人課題では低気圧の中、折り紙を折るような単純作業ができるかを中心に見ていく。俳優と気圧の問題は、以前から課題にあがってきたことだ。そして彼らには、一匹のカメを保護してもらい、その過酷な環境下で、知恵を振り絞り、できるだけカメを生かすことができるかを競いあう。まあ、これは主にNASAの訓練生がやることで、今回の映画オーディションとは全く関係がない。

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結局、門司くんのオーディションは、腕力で決めた。演技より何より、まず喧嘩が一番強い人にしようと思ったのだ。優劣とは、常に、闘争本能の上に成り立つと、ライオンを長年研究し続けてきた、ある著名な動物学者は言った。それで、最後の審査は、実際の高校の教室を借りて行い、そこに15人を集め、一匹のライオンを放つ。同じオーディションの俳優たちを、腕力でねじ伏せ、そしてライオンを飼いならし、屈服させることができた者は誰なのか。果たして、この地球上で、一番強いオスが誰なのか。日本のオーディションでは、よくある方法である。まさに、チベットの秘境に暮している、ヤクたちの教えが、このオーディションに活かされていた。そして、その教室から、見事に、ライオンをタコ糸で繋ぎ、血だらけで教室からでてきた男。

それが、細田佳央太であった。

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つづく


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