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発酵食品を科学する~腸活ラボマガジンVol.16~


はじめに

こんにちは、やまだです。今回は、身近な発酵食品を例にとってどのようなプロセスが発酵食品において起こっているか、また発酵食品をとることでどのような変化が腸内で起きるかについてお話ししたいと思います。
そもそも、日本は、発酵食品大国です。味噌や醤油、漬物、日本酒、納豆など発酵の力を借りて生まれている食品に囲まれて日本人は生活しています。
今回は、発酵食品を科学の眼鏡を使ってみていきたいと思います。

発酵に関わる微生物たち https://www.nisshin.com/welnavi/magazine/food/detail_002.html

そもそも発酵とは?

発酵食品の定義は、「好気性もしくは嫌気性の条件で、望ましい微生物が増殖し、その微生物の持つ酵素により食品成分が変換されてできた食品」といえると思います(ref1)。これによって、味や食感、安全性、栄養素に変化が起こります(ref2)。
また、食物が肥満や糖尿病をはじめ様々な疾患に影響を与えるように(ref3)、発酵食品もまたヒトの体に影響を与えます。腸内微生物叢によって代謝される食物は、腸内微生物の構造に影響を与え、腸内の様々な細胞との相互作用を介して宿主に直接シグナルを送ったり、吸収後に末梢組織にシグナルを送ったりする可能性のある代謝産物を作り出します(ref4)。

では、そもそも発酵に必要な微生物たちは、どこから来るのでしょうか?
自然発酵の場合、原材料の表面や生産者の手、発酵食品の製造に使われる部屋や設備に付着している微生物が発酵を始めます。微生物が、はじめの段階では多様ですが、原材料などが多ければ、そこに住む微生物が優勢になります。一方、原材料を低温殺菌してから、特定の微生物もしくは株を入れて培養することで特定の微生物を増やすこともできます。これをスターターカルチャーと言い、ヨーグルトやチーズを作る時に使われています。乳酸菌○○株やビフィズス菌○〇といった具合です(ref5)。
食品の発酵の種類も、発酵に関わる微生物の違いによって色々です。具体的には、乳酸菌や酢酸菌、糸状菌、酵母などがあります。
代表的なものが乳酸発酵だと思います。ヨーグルトなどの乳製品や漬物やピクルスなどがあります。
野菜を用いた乳酸発酵では、塩の添加と炭水化物の利用によって塩分を好む乳酸菌(LAB)の増殖が促進され、初期の群集優勢と抗菌ペプチドと有機酸(主に乳酸)の分泌につながり、増殖がさらに促進されます(ref6,7)。LABが優勢になることで腐敗を進めるような微生物の増殖を阻害し、排除することができます。
また、日本酒や焼酎、しょう油や味噌を作る時に用いられる日本コウジカビ(アスペルギルスオリゼー)や紹興酒などの作成やインドネシアの伝統食品テンペに用いられるクモノスカビ(リゾプスオリゼー)は、タンパク質加水分解酵素を分泌しますが、真菌(○○カビは真菌です)の増殖を促進するだけでなく、発酵食品のおいしさの向上にも重要な役割を果たします。この過程で生成される代謝産物は、美味しさと食品の安全性を高める上で重要な役割を果たし、微生物間および微生物と宿主の相互作用を媒介します。
では、次に発酵食品で得られるメリットについてみていきましょう。

食品の安全性を高める

これまでに、発酵食品は、長期にわたって保存できる技術としても扱われてきました。これは病原菌が増えづらく、中身が変質しづらいということでもあります。具体的には、様々な有機酸、主に乳酸や酢酸が生成されることでpH が低下し、ボツリヌス菌、リステリア菌、大腸菌 O157:H7、フレクスネリ菌などの食中毒菌にとって住みにくい環境が生まれること、バクテリオシンと呼ばれる抗菌ペプチドが分泌されることで病原菌が増えづらくなるなどの効果があります。
また、これは日本人にはタピオカの原料として有名なキャッサバですが、生のものは神経毒性のあるシアン配糖体が高レベルで含まれています。しかし、発酵により7割以上が削減されます。

栄養素の向上・風味と味わいの醸成

発酵食品のメリットの一つは、栄養素が向上することでもあります。最近の研究から、発酵食品においては、非発酵食品と比べてビタミンCやビタミンB2、ビタミンB12、ビタミンK、葉酸などの栄養素が増加していることも明らかになっています(ref8)。また、コンブチャの生産過程で茶葉からポリフェノールやフラボノイドなど抗酸化物質の含有量が増加することも明らかになってきました(ref9)。
そして、メリットの二つ目は、風味や味にも変化があることです。例えば、炭水化物が発酵すると、糖の分解およびメイラード反応経路を介して、ナッツやアーモンドのようなフレーバーに関連するチアゾールやフルフラールの生成を引き起こす可能性が指摘されています。
また、発酵する際に、アミノ酸異化のひとつエールリッヒ経路が進むと、バラのような香りが生じることも指摘されています。これは、2-フェニルエタノールなどの硫黄含有芳香族分枝鎖揮発性物質によるものです。
さらに、多くの発酵食品の生産に関わる糸状菌は、発酵中に加水分解酵素を分泌し、アミノ酸とオリゴ糖を増加させ、うま味と甘味の感覚を促進することも指摘されています(ref10)。
甘味、苦味、うま味センサーは、実は、口の中だけではなく、消化管全体で発現しています。そのため、風味に関連する88種類の代謝産物は、特に栄養素の吸収と結びついた場合、味覚を超えた役割を果たすことさえあります。
例えば、甘味はT1R2/T1R3という受容体で感知されますが、腸内分泌細胞でも発現していて、感知されると、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)やグルコース依存性インスリントロピックポリペプチド(GIP)、さらにはグルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)といったインクレチンホルモンの分泌を促進することが明らかになっています(ref11)。GLP-1などは瘦せホルモンなどとして着目されていますね。
また、苦味については、TAS2R43という受容体によって感知されます。苦味のあるカフェインの使用は、TAS2R43 受容体を介して胃内の胃酸分泌を促進し、腸由来のセロトニン分泌を引き起こすことが示されています(ref12)。また、ビールの製造時によく添加される熟成ホップ苦味酸(MHBA)は、EEC によるコレシストキニンの産生を増加させることが示されており、食欲不振シグナル伝達と胃内容排出を促進します。
また、腸活においてはおなじみの短鎖脂肪酸ですが、こちらは、腸管ペプチドPYYやGLP-1の分泌を促進する可能性があるだけではありません。酪酸とプロピオン酸は、腸内分泌細胞における FFA2/3 共活性化依存機構においてうま味受容体 TASR1/TASR3 の発現を増加させ、その栄養感受性を変化させることが示されています。これらの短鎖脂肪酸は、ヨーグルトやコンブチャなど様々な発酵食品で濃度が増加します。

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