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【明るい未来の話】

昨日まで左手につけていた民族柄の可愛いバングルは、ビジネス仕様のメタルバンドの腕時計になり、昨日まで履いていたお気に入りのエアマックス95は、先の尖った革靴になった。
内定獲得から約半年程目を背け続けてきた現実が、一気に押し寄せてきた。


入社式。
「不安と期待に胸を膨らませ〜」なんて言葉は僕とは無縁のようだ。とてつもない勢いで膨らんでいくのは果てしないほどの憂鬱だ。

早起き、集団生活、上下関係、勉強、良質なコミュニケーション、気遣い、積極的な姿勢、etc...
大学の4年間では避け続けていた実に人間らしいこれらの行為を次の月曜日から本格的にしなければならないことがたまらなく苦痛だ。

大学の4年間は社会人への準備期間だとよく聞くが、僕はその準備を怠り、放棄して自分の世界にのめり込んでいってしまった。友人も少なく集団での行動とはほぼ無縁、特にコロナ期間になってからは趣味に膨大な時間を費やすようになり、真面目な顔して就活をして内定が出てからも、何の準備もしていなかった。正直舐めていた。

2〜3月になり入社が現実味を帯びてきても、変わらず文化を消費し続け、目を逸らし続けていたため、今日の入社式では泣き出しそうな気持ちだった。頭の中では、なぜか斉藤和義の「空に星が綺麗」がずっと流れていた。






でも、後悔はしてない。群れでしか動けないような大学生を敬遠し、ろくに勉強もしなかったが、たくさんの趣味を見つけてさまざまな世界を知れた結果、大切にしたいと思える人にも出会えたからだ。そんなに人を大切に思ったことのない僕が。
しかし、その人とは僕が地元に帰って就職したので離れ離れになってしまった。これも僕が果てしない憂鬱に苛まれている原因の一つだろう。同じ文化を愛し、同じ考え方を持つ人の存在は想像以上に大きい。
その人と出会って初めて、「あぁ、友達少なくて良かったな。つまらないミーハー大学生にならなくてよかったな」と強く思った。

この人に出会うために僕は普通の大学生が好まないような文化を寵愛し続けていたのかもしれない。いや、それは嘘。やっぱり自分の娯楽のためだ。
危ない。運命がどうたらこうたら言うような胡散臭い人間になるとこだった。こんな事を言っても多分あの人は喜ばない。


そういう訳で、僕は僕の愛した文化の大半を、南武線のあの小さな駅に、隣人の怒号がうるさくてお香の煙で燻んだ空気のあの部屋に、置いてきてしまったのだ。物理的に置いきたものもあるが、心理的なものがほとんどだ。

もう僕は、あの人無しで僕自身が愛した文化を愛せないのかもしれない。あの日ミニシアターで観た映画も、あの日触ったイグアナも、あの日歩いた商店街も、あの日行った古着屋も、そして昨日最後に行ったあの場所も、二人共呑気な学生で、何にも縛られていない自由な感性で味わえることはないのかもしれないと思うと、虚しさがこみあげてたまらなく胸が苦しくなる。
今でも昨日のことのようにその時々の会話や仕草を鮮明に覚えているが、これから働き出すとすぐに忘れてしまうだろう。いや、最低でもまたあの人に会える時までは、覚えておこうかな。


それに、また会える時までは元気に生きてないといけないし、お金も貯めて一緒に文化を消費しに行かないといけないので、それまではなんとなく社会人っぽいことをやってみようと思う。あまり気負わずに気楽にやっていきたいけど、僕の性格上、きっと緊張して眠れなくなったり、くよくよ思い悩んだりするに違いない。
そんな時でもきっと、あの人は「大丈夫だぁ」「いつでも帰ってきいやぁ」「ゔうぅぁ〜」と言ってくれると思う。


これからなんとかなる気が、せんこともない。


今日はなんだか余計なことばかり話しすぎてる気がするし、情けない話ばかりで自分が恥ずかしくなってくるけど、書くことで気持ちを発散させられることもあるといつか誰かが言ってた気もするので、許してください。ハゲタコォ!

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