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書評「CT読影レポート、この画像どう書く?」 / 小黒草太著(東京医療センター放射線科、慶應義塾大学医学部放射線診断学科)

まず結論を書くと、本書は放射線科レジデント、および診療放射線技師に最適な書である。太鼓判を押せる、五つ星(☆☆☆☆☆)の本だ。

読影の場では、親切な先輩医師がシェーマを描いて教えることが良くある。そのたびにレジデントは、「そうかこうやって診るのか、そんなサインがあるのか!」と喜びを感じ、毎日成長していく。

そうったやりとりの集大成がこの本である。

CT読影レポート

まったくNull* のレジデントがやってくるとき、ピクセルとかボクセル、部分容積効果(partial volume effect)も教えたりする。そういったために、第一章は「読影する前の基礎知識」になっているので、「来週からいよいよ放射線科」というときに重宝しそうである。

* Null : ゼロのこと。転じて、「こいつ、超音波のことまだ全くNullなんですけど置いていっていいですか」(まだ超音波のことをまだ全く知らない者なのですが教えていただけますか)といったようにも用いる。

どんなことでもそうだが、何かを始めるときに、付け焼き刃でもいいから少し知っておくと楽しい。そのためには「とりあえず」の記述があると、緊急対策できる。しかし成書にはそういった配慮のある本はあまりなくて、最初の「基礎」の部分は、「難解な基礎、知らない人にはつらい基礎」である本が多い。本書は逆に、誰でも読み進めることができる体裁になっている。そこがまず秀逸である。

その後は臓器別の所見(述語)の用い方が解説されている。固体臓器だけでなく、腹腔や後腹膜、血管病変に対する記述など、放射線科のレポートに必須の所見用語がわかりやすく、すべてシェーマ付きで書かれている。本を書く際には、記述と写真が一致していることが大切だが、これがとことん実現されている、練りに練られた本であることが分かる。

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このような本は、診療放射線技師にも福音をもたらすので、強くお勧めする。しっかりとした画像を撮るには、画像に現れる異常所見を、検査時に瞬間的に発見する「診断眼」が必要である。ところが昨今は、画像が大量に高速に発生するので、毎日撮影・撮像を担当していても、ただ自分の前をたくさんの画像が流れていくだけで、なにもゲインしない環境になってしまっている。駅前のスタバで人々のうつろいをぼぉっと眺めていても、何も起こらないのと同じだ。

ところが、所見のコトバを知っていると、俄然「画像を見よう」という気になる。医師との会話も楽しくなる。重要項目はすべて英語も併記されている。ぜひ熟読し、会話し、ある日所見を発見して、「おっ、これか!」という体験をしよう。これを繰り返すと、だんだんとアクティベートされる。DWIBS法の撮影担当技師が画像を見て所見メモを書くと、画像の失敗が無くなることを私は経験しているので、このような変化が必ず起きることを保証できる。ぜひ、「画像が流れる」→「画像を見よう」→「画像を診れる」という内的な変化をもたらそうではないか。

筆者の小黒先生は、骨軟部とともに、IVRが専門の医師だが、そのためであろう、大変ユニークなことに、最後の章は針の刺し方についてのコツが詳しく書いてある。センスの良い者であれば自然に獲得していくこともできる穿刺技術だが、そうでない者にとってはなかなか上手くできず悩むものである。そこに光をあてているところもうなずけることである。

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私は駆け出しのときに慶應義塾大学附属病院で小児科の研修をさせていただいたが、「医師談**」において先輩から読影にしろ手技にしろ、さまざまなコツを教わったものだ。それを思い出させてくれるすばらしい内容であった。ちなみに、駆血に関しては、きつく縛れば良いと勘違いをしていて、静脈採血時に必要な効果的なうっ血状態を作り出すための「静脈圧以上、動脈圧以下」で縛れない者も多く、最近では「マサキカフ」といった商品も考案されたと聞く。このあたりも次回の書で小倉先生に記述してもらえるとさらに良いのではないだろうか。

**医師談:いしだん。医師談話室のこと。小休憩を取るのに使われていた。


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