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AIとウィキペディア ~知の共有空間としての価値~

 ウィキペディアは世界最大の多言語オンライン百科事典として、人類の知的資産の宝庫です。しかし近年、AIによるコンテンツ生成技術が急速に発達し、ウィキペディアを取り巻く環境は大きく変化しつつあります。
 本記事では、ウィキメディア財団の最高技術責任者セレーナ・デッケルマン氏のインタビュー情報を元に、ウィキペディアがAIの台頭についてどのような考えを示しているのかご紹介します。

人間とAIが協調する新たな知の創造

 デジタル化が加速する中、AIによるコンテンツ生成が盛んになっています。大手テック企業はAI開発に多億ドルを投じ、ChatGPTなどの対話AIが話題を集めています。
 このような潮流の中で、ウィキペディアの対応はどのようなものなのでしょうか。

 ウィキメディア財団のセレーナ・デッケルマン最高技術責任者(CPTO)は、AIの時代でも人間の貢献を重視する姿勢を示しています。人工知能はコンテンツを生成できますが、多様な視点を反映した深い議論は人間にしかできません
 そのため、編集者の作業を支援するAIツールの開発が推進されています。

オープンソースの理念による持続可能性

 一方で、大手企業によるウィキペディアのコンテンツ活用への懸念も指摘されています。ウィキペディアはオープンソースの理念の下、世界中の人々による無償の知の共有によって支えられてきました。コンテンツ創作者への適切な還元の仕組みが不可欠です。

 デッケルマン氏は、「人々がコンテンツ創作に対する意欲を失えば、持続可能ではなくなる」と警鐘を鳴らしています。オープンソースコミュニティの支援は、彼女の長年の活動分野でもあります。

コミュニティとの対話を重視する姿勢

 ウィキペディアの大きな変更はコミュニティによる議論を経て決定されます。デッケルマン氏は、情報公開と編集者コミュニティとのフィードバックを重視しています。徹底した対話を通じて、AIに関する取り組みも進められています。

プラットフォーム外への展開の模索

 一方で、検索エンジンの変更などにより、ウィキペディアへの直接の訪問者は減少傾向にあるとのこと。
 そこで、プラットフォームとの連携による新しい情報提供の在り方が模索されています。ChatGPTなどとの実験が進行中ですが、ユーザーニーズに合ったベストな方法は未知数です。

知の共有空間としての価値を守り抜く

 AI技術の進化に伴い、ウィキペディアを取り巻く環境は大きく変化しています。
 しかし、デッケルマン氏の理念は、テクノロジーと人間の貢献のバランスを保つことです。AIとの共存を目指しながらも、世界中の人々による自由な知の共有の場としての価値を守り抜くことが重要だと語っています。

 ウィキペディアは、単に情報の集積にとどまらず、多様な視点の統合による新たな知の創造の場ということもできます。人間とAIが協調して知を育んでいく、そんな理想的な未来が実現できることを願っています。

参考文献
MIT Technology Review

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