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【創作】題名のない物語WSS 第1話

【このお話は【創作 題名のない物語 〇話】として、12月7日から11日にかけて綴ったお話を、西野という登場人物の視点でリライトしたものになります。このため、まず、【創作 題名のない物語 〇話】をお読みいただきますようお願いします。WSSは、ウエスト(W)・サイド(S)・ストーリー(S)という意味になります。】


第1話 華
「どうして私が叱られなきゃならないのか」
そう考えた瞬間から、目の前でキャンキャン吠える塚原課長の声が遠くなった。
 職場の先輩から、「塚原課長の判子が漏れているから、貰ってきて」と依頼されてきただけなのに、経理の制度がおかしいとか、こんな忙しい時に来るなとか、若い世代が駄目だとか言われても、私には関係ない話でしょう。「給料泥棒」とまで言われた瞬間に、「では、もう辞めさせていただきます」という言葉が頭をよぎる、もともと好きで入った会社でもない。
「課長、お話中にすいません」
斜め後ろから声が聞こえ、塚原が顔をしかめる。声の主は西野の横に立ち、言葉を続ける。
「例の田中商事のことで、少し確認したいのですが」
言いながら、書類を塚原の机に広げる。空気の読めない人らしい。あまり目立つタイプではないので、名前はわからない。
「木元、お前なぁ、それって今しなきゃならない話かぁ」
 西野の気持ちと、塚原との意見が一致する。木元がはにかむような顔で「はい」と応える。「しょうがないなあ、西野さんはもう戻っていいよ。書類貸して」
 塚原は渡した書類にポンポンポンと判子を押して、書類を返してくれた。どうせ押すなら、さっさと押してくださいよ。と思いながら自席に戻り先輩の机に書類を置く。2つ先輩の中村が話かけてくる。
「災難だったわねぇ、塚原課長は新人を見ると必ず、マウントをとりたがる人なのよ。ま、ハラスメントみたいだけど、わが社のツーカギレイみたいなものだから、我慢してね」
 そんな通過儀礼は廃止にしてください。ハラスメントみたいではなく、ハラスメントです。
「ただねぇ、あれでいて部下想いのところもあったりして、部下を庇って上の人に楯突いたりもするのよ」
 それはハラスメントをしていい理由にはなりません。なんて駄目な会社なんだろう。
「木元さんもねぇ、もっと早く助けてくれればいいのに、もっさりしているというか、何というか。塚原課長を止めるのは木元さんの仕事なのにねぇ」
え、助けてくれた?単に空気が読めないだけじゃなくて。私を助けるために課長に話かけたということ。顔をあげて塚原課長の席を見ると、楽しそうに木元と談笑しているようだった。
「そういうものなんですか」
「そういうものよ。後ねぇ、うちの課長と塚原課長は同期で、塚原課長はうちの課長をライバル視しているから、うちにはことさら厳しいのよ。ま、これからも色々と教えてあげるから、仲良くしましょうね」
 中村は微笑み、西野も作り笑いを返した。そういうことは、塚原課長のところに行く前に教えて欲しかったです。とは言えなかった。窓の外では、春の暖かい日差しが、道行く人を包んでいた。これから週末にかけて、ニュースやネットでは桜の話題が増えるのだろう。
 そんなことを考えた後、仕事モードにスィッチを切り替えた。


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