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【創作SS】街クジラは好きですか? #シロクマ文芸部

「街クジラって、言われたら何を想像します?」
高橋は悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、唐突に聞いてきた。
 先輩に対し、失礼な態度だと思うが、その子どもっぽい表情は嫌いじゃない。

 暗くて狭いバーのカウンターには俺と高橋しかいない。小さなテーブル席には誰もいない。それなのに体を寄せるように、囁くようにして話してくる姿勢に、
(お前、距離感間違えてないか)
とツッコミたい気もするが、離れられるのも惜しい気もあり、少し顔を寄せ、同じように囁くように答えを告げる。
「アレか、街にある巨大なオブジェか。じゃなきゃ、クジラみたいなビルとか」

 高橋は正面に向き直り、空のグラスをバーテンダーに向かって軽く上げる。
「同じものを」
 ピッチが早い気がするが、バーテンダーは軽く頷くと、静かにグラスを交換し、琥珀色の液体を注いだグラスを高橋の前に置いた。高橋は軽く口をつけ舌で唇を舐める。濡れた口がなまめかしい。
「その人、くじらが大好きらしいんで、僕は「くじらさん」って呼んでいるんですが、まだ世に知られていない、凄い作家さんがいるんです。僕らと同じように、普通に生活しながら、いろんな物語を創作しているんですよ。
 作家として、くじらみたいに大きな可能性を秘めながら、普通に街で暮らしているから、『街クジラ』かなぁ、とか考えているんです」
 高橋の顔が少し紅くなる。その「くじらさん」とやらを想っているのだろうか、心がザワザワする。
 多分、俺は険しい表情を浮かべてしまっていると思うが、高橋はスマホをイジリだしているので、俺の気持ちには全く気づいていない。

「これですよ、これ。「くじらさん」がkindle出版しているいる『イルカの恋は涙色』っていう電子書籍です。kindle unlimitedにも対応してますから、鈴木さん無料で読めます。短編小説が二本収録されてます」
 スマホの画面には、Amazonのサイトが表示されていた。

「面白いのか?」
高橋は首をブンブンと横に振った。
「面白いかどうかは、その人の好みですから俺には何とも言えないです。けど、俺は、この物語が好きなんですよ。誰が何と言おうが好きなんです」
 そういうと、仕事の時には見せないような真剣な表情を浮かべた。
「誰にでも勧めるわけじゃないです。けど、俺は鈴木さんが好きだから、同じ本を読んでもらって、一緒に語りたいと思ったんです。すいません、もぅ大分、酔ってるんで、気持ちを隠せなくてすいません。けど、もう、我慢できなくて」
 高橋の目から涙が零れた。

 肩を抱き寄せたい衝動を抑え、バーテンダーに目くばせをする。
「お会計を」
そのまま、高橋の方を向き
「もぅ、お開きにしような」
グラスをあおり空にして、そのまま高橋に右手を指し出す。高橋は素直に手を取り椅子から降りた。
「すいません、変なことを言って」
下げた頭から、涙が床に落ちる。
(海色の涙か、それとも恋色なのか)
「うん、変かも知れないな、けど、変と恋は似てるし、俺は変な奴を嫌いじゃない。というか、この店に連れてくるのは好きな人間だけだ」
高橋の肩を抱き寄せ、出口へと向かう。
「今夜は、このまま帰す。そして、お前が推している、その本を読む。今度、素面の時に聞いてくれるか『街クジラは好きですか』って」
高橋が顔を上げる、目が輝いている。
「期待しても、いいんですか」
「その本を好きになれるかは、まだ、わからない。が、好きな人と 好きな物語を 語り合うってのは、魅力的な提案だ」
 高橋と触れている体の部分、熱が上がったような気がした。俺が熱くなっているのか、それとも高橋か。

 ドアを開けると、漆黒の闇にネオンが輝いている。
 風が冷たくて気持ちいい。
「高橋、大丈夫か。ちゃんと歩けるか」
 答えは返ってこない。このまま、放置する訳にもいかないだろう。前言撤回、今夜は高橋を自宅に連れて帰ることにしよう。
 寝かせたら、高橋が勧める本を読んでから床で寝ることにする。明日の朝、コイツが今夜の話を覚えているかどうかは解らないから、俺から聞いてやろう。
「街クジラは、好きか」

(本文ここまで)
 大事なことなので、もう1回リンクを貼ります。作中に登場する物語は、こちらです。

#シロクマ文芸部
 小牧幸助さんの企画「シロクマ文芸部」 お題「街クジラ」に参加です。

https://note.com/komaki_kousuke/n/n832929f33766

 えー-、お気づきの方もいると思います。ちょっとBLっぽい作品です。このジャンルは初挑戦です。念のため書きますが「BL」と「イルカの恋は涙色」は全く関係ありません。
 なので「イル恋」の著者「みくじさん」こと「mikuji58さん」こと、「くじらさん」から、「削除依頼」が届いた場合、本稿は削除します。
 noteでも活動されている、こちらの方です。

 くじらさんは2021年7月からnoteに参加されているので、もうすぐ2周年ですね。
 ほんと、くじらさんの描く、優しくてファンタジーな世界観が大好きなのです。私はファンタジーな世界が苦手なので
『おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!』
って感じです。
 なお、本文では登場しませんでしたが、店の名前は「BAR シェリル」といいます。バーテンダー(ママ)は「たくちゃん」です。
 普段は賑やかな店で、ママもお喋り、お節介キャラなんですが、今夜は見守りいただきました。








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