見出し画像

銀山町 妖精綺譚(第12話)

第十一章 銀山町役場 

 週明けの月曜日、高橋からの報告を受けた飯田は目を真ん丸にして驚いた。
「本当に、稲村先生のコレクションを無償で寄付していただけるのか。何か裏があるんじゃないか。館長として就任したいとか、施設名に名前を入れて欲しいとか。その辺りの条件提示はどうだった」
「今後詳細を詰める中で、何かしらの条件を提示される可能性は否定できませんが、土曜日の感触としては、全くの善意で条件無しでした。田中が送っていた町の風景写真をご覧になり、銀山町を非常に気にいっていただけたようです『ここは妖精が住む場所ね、妖精美術館に相応しい』というお話もいただきました」
「本当に無償で無条件だな、その旨を町長に報告しても大丈夫だな」
「はい、ただ……」
「なんだ、やはり条件があるのか」
「いえコレクションの整理ができていないということで、田中が整理やリストアップの手伝いをするという話をこちらから申し出ました」
「そうなのか田中君」
「はい、実物を見せていただく方が美術館の展示などにも役立つと思いました」
「それはそうだな。是非、稲村先生のお役に立ち我が町に貢献して欲しい。なるべく早く町長に報告しよう」

 報告を聞いた町長は、ガッツポーズを極めて大喜びした。
 飯田は「私が写真を送るよう指示しました」と胸を張りながら、蒐集品購入の経費が浮く分、建築費に予算をかけられることを示唆した。
 町長からは「妖精の住むふるさと事業」について「広報ぎんやま」で特集記事を組み、今後の展望を町民に周知するようにとの指示が出された。
飯田は(長谷川建設が工期や人員について無理なく受注し、円滑に工事を進められるよう)ハード面を段階的に整備したい旨を提案し、町長を一層喜ばせた。

 こうして「妖精美術館建設」を中心とした「妖精の住むふるさと事業」は、怒涛のごとき公共事業として進められることになった。
 なお田中が稲村コレクションの整理を手伝うことについて、飯田と高橋は公務で行うよう田中を説得したが
「それでは稲村先生への恩返しになりません、個人として無償で行かせてください」
と譲らなかった。

 役場の外では鳥たちが楽しそうに囀っていた。

https://note.com/tarofukushima/n/n767d10427a06


#創作大賞2024
#お仕事小説部門


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。