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【前編】石鹸のキュキュっと感の正体

こんにちは、化粧品技術者の たろ です。
今日は石鹸と石鹸カス、そして石鹸カスがお肌に与える影響について書いていきたいと思います。

きっかけは #毎日コスメクイズ のこのツイートでした。
実は石鹸を使った後に感じるキュキュっとした感触は石鹸カスが肌に付着するために生じるのですが、この洗浄感の理由に対して約半数の人が洗浄力の高さを理由と考えており、石鹸カスの影響と答えた人は1/4以下でした。


これに対し、化粧品技術者の美里 康人@misato_beautyさんがこのようにコメントをくれており、石鹸に対するイメージについてまとめてみようと思いました。

そもそも石鹸とは何か?

Wikipediaによると
石鹸(石鹼、せっけん、せきけん、英: soap)とは高級脂肪酸の塩(えん)の総称のことで、脂肪酸の塩でないものは(少なくてもこの記事では)石鹸とは呼びません。

水に溶かした石鹸に水道水などに含まれるカルシウムやマグネシウムなどの2価金属イオンが反応すると、石鹸カスが生じます。化学反応的に表すとこうなります。

石鹸以外の界面活性剤は石鹸カスが出来ないものが多いので市販の洗顔料の中でも石鹸タイプとそれ以外を分けて考える必要があります。

繰り返しになりますが、石鹸以外のタイプでは石鹸カスは生じません。そのため、石鹸のキュキュっとした感触は石鹸独特のものです。

化学的な特徴と分類

石鹸とそのほかの界面活性剤は、疎水基が脂肪酸であるかどうかで分けて考えます。

石鹸は化粧品表示名称でいうとラウリン酸Naやオレイン酸Kなどシンプルな名前が多いです。カリ石鹸素地という石鹸の混合物を示す名称もあります。
構造的には炭素Cの鎖が長く連なった構造の疎水基を持ち、まっすぐなものが多いです。

石鹸以外の活性剤はいわゆる合成界面活性剤と呼ばれることがあるもので、シャンプーなどでよく見るラウレス硫酸Naやステアロイルグルタミン酸Naなどのアミノ酸系の活性剤が挙げられます。構造的にはまっすぐじゃないものがほとんどです。

石鹸カスとは何か?

それでは石鹸カスとは何でしょう。別名、スカム金属石鹸などとも呼ばれます。
石鹸カスとは脂肪酸に2価の金属イオン(カルシウムイオンやマグネシウムイオン)が結合しこのような構造になっています。

この時点でイオンの電荷を失っているので界面活性剤として働くことはありません。
むしろ水を嫌う疎水性を持っており、水に溶けることができないので、 生成した瞬間に析出して肌やお風呂場の壁やタイルなどに付着します。

小まとめ;石鹸と石鹸カスの大きな違い

石鹸と石鹸カスの主な違いは界面活性能があるかないかです。
石鹸水は界面活性能を持つため、肌に長い間触れているとセラミドなどの細胞間脂質を溶出させ NMFなどの保水成分も失ってしまい最終的にはバリア機能の破壊につながります。
しかし石鹸カスは界面活性能を持たないため、これらの事は起きません。もはや水に溶けないナニカです。まさにカス。つまり石鹸で問題視される強い界面活性がないため石鹸カス自体は肌に付いていても何ら問題ないと考えられています。

日本と世界の水道水

ここで再び石鹸と水道水中のイオンの関係について考えてみます。
実は日本は世界的にみると軟水つまり水道水中に金属イオンが少ないという特徴があります。

https://www.shiatsu-hitoyasumi.com/2015/07/15/8288.htmlより


そのため日本で設計された石鹸をヨーロッパや中国に持っていくとかなり泡立ちが悪く、キシみが強いことが経験的に知られています。皆さんも感じたことがあるのではないでしょうか。
これがまさに水道水のイオンから石鹸カスを生じていることの実証になります。
まず泡立ちが悪いのは、2価金属イオンが多く石鹸カスがすぐに大量に生じてしまうためです。石鹸カスは疎水性なので泡立ちを妨げます。髪を軋ませるのも同じで、普段軟水で髪を洗っているのに慣れてる日本人は硬水が作る大量の石鹸カスに慣れていないため、非常にキシみを感じてしまいます。

そのため海外メーカーの洗顔料やシャンプーは石鹸カスを作りにくい合成界面活性剤を中心に処方されています。海外製品を日本で使うと石鹸カスが生じないため、いつまでもヌルヌルして洗い流しが悪いように感じます。
これは想定している水の環境が違うために起きる問題であり、洗顔料がモコモコに泡立つのは世界中で日本だけの特権であるという風に考えることもできます。

石鹸カスを生じさせない実験

石鹸カスは何度も言うように石鹸とイオンが反応したものですので、2価金属イオンがない状態で洗い流せば石鹸カスは生じません。
一番わかりやすいのは洗顔を泡立てたり洗い流すために、精製水を使用することです。
精製水は脱イオン水と呼ばれ、イオンがほとんど含まれていないため、石鹸カスが生じません。
精製水で石鹸を泡立て、洗い流すと、いつまでもぬるぬるしてキュキュっとした感覚がありません。
これは誰でもわかるので、やってみるととても面白いです!

美容関係にお勤めの方は Amazon で精製水が簡単に買えますので一度実験してみることをお勧めします。石鹸を使った時のキュキュットした感覚が全くなくいつまでもぬるぬるぬるぬるとまるで石鹸じゃないような感触で洗うことが感じられるはずです。

精製水を手に入れるのが難しいよ!という人は軟水のミネラルウォーターでも差が感じられると思います。おすすめは日本の産地からとったミネラルウォーターです。裏を見てみると成分表示がありますのでそこのカルシウムやマグネシウムの量を観察してみてください。

こちらのサイトによると東京都の水道水は 60から80mg/lのカルシウムイオンを含んでいるそうなので約1/3から1/10程度のイオンの濃度であることが分かります。ミネラルウォーターで洗い流しても、石鹸カスの感触の違いが判ると思います。
 ↓東京都水道局の水質検査↓

前編のまとめ

石鹸のキュキュっとした感触は石鹸カスの感触
石鹸カスは石鹸と水道水に含まれる2価金属イオンの反応で生じる
石鹸カスはもはや界面活性剤ではない

後編につづきます!
後編ではやや化学・技術寄りの視点で解説します。

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