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風が吹いて桶屋が儲かるように、自然気胸になって大学を辞めた話

これまでに二度、入院したことがある。小二のときの一度目の入院はほとんど覚えていない。そもそも小二の時の記憶自体がほとんどない。二度目は19の時だ。これは覚えている。

自然気胸、聞いたことはあるだろうか。珍しい病ではない。芸能人でいうとナイナイの矢部っちや嵐の相葉くんも経験がある。のっぼで痩せている男性に圧倒的に多く発症する。それを聞いた時、どんぴしゃだと思った。気胸というのは肺に穴が開くことだ。事故など外的要因で開くこともあれば、通常生活の中でピッと破れてしまうこともある。後者が自然気胸だ。

入院の一年前、18のときにもそう診断されたことがあった。予備校で昼食に出かけたときに、胸に刺すような痛みを感じた。それはたまに起きていたことで、またか勘弁してくれ、というくらいの気持ちだったが、いつもと違ったのはその痛みが昼を終えて校舎に帰ってからも続き、その強度を増していたことだった。どこで診療を受けたのかももう覚えていないが、そこで自然気胸という言葉を初めて聞いた。安静に暮らしていれば治るということだった。同時に聞いたのは、この体格での発症率の高さ、そしてこの病の再発率の高さだった。

真面目な予備校生ではなかった僕は、次の春、第一志望ではない大学で、しかし理工学部に入れて、浮かれはじめていた。一月ほど経ったころ、真面目な学生でもなかった僕は、遅刻しそうな授業に向けて、キャンパスの中を全速力で走っていた。そしてあの感覚が襲ってきた。ピキーン。音がしたかと思った。瞬時、これは気胸だと理解していた。かくして二度目の自然気胸の診断を受け、医師からは思いがけない言葉が続いた。これは手術したほうがいいな。こうして、大学入学一か月にして、僕は入院することになった。

大手術ではない。胸腔鏡で予後は悪くなく、平和に日々は過ぎていった。この空白の一週間に、サークルに入るタイミングが存在した。それを逃した僕のキャンパスライフから、どんどんと色が抜けていった。自宅から自転車で通えるほどの距離のキャンパスとの無味な往復の中で、単位はポロポロとこぼれていった。99%は入院のせいではないのだが、入院のせいにすることで、少し救われていた。看護師さんたちごめんなさい。色々あったけれど、病院での日々は快適でした。

入院のことを思い返してみて、三度目の入院、極力この到来を遠く遠くするために、心身の健康に前のめりでコミットしていきたいと思った、8月最終日。

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