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未来の建設業を考える:建設論評「“0”と“1”でない社会」(2021年7月9日)

デジタルとは何か?

 デジタルとは何か?と聞けば、多くの人は“0”と“1”、電気信号が流れるか流れないかのトランジスタ回路のかたまりで、複雑なことも “0”、“1”のみで表記できると考えがちだ。いわゆるデジタル社会は2進法の世界だと、多くの人が思っている。

最先端のITやAI(人工知能)で用いられる信号は、”0”,”1”ではなく、実は”0”と”1”の間の実数を出力する仕組み

 しかし、最先端のITやAI(人工知能)で用いられる信号は、”0”,”1”ではなく、実は”0”と”1”の間の実数を出力する仕組みになっている。それはまさに人間の神経細胞と同じ仕組みだ。人間の脳の中にあるニューロン(生物の脳を構成する神経細胞)が、電気信号として情報を伝達する。その際に、脳細胞(ニューロン)から別のニューロンにシグナルを伝達する「シナプス(神経細胞の接合部)」の結合強度, 強い信号と弱い信号の違い、伝達力の強度の違いによって、情報を変えているのが、人間の脳だ。

機械学習、ディープラーニング(深層学習)

 機械学習、ディープラーニング(深層学習)では、コンピューター自身が多くの事例を学び、コンピューター自身が判断する方法だ。ディープブルーがプロ棋士に勝ったのは記憶に新しい。
 ディープラーニングは、数百層にもなる多層で構成される。そこでは、人間の脳と同じで、シナプスが重みをかけて接続され、ニューロンがアウトプットを生成し、そのアウトプットが次に信号を伝え、その多くの繰り返しで、新しき発想を生み出している。

現在の最先端のデジタルは、“0”、“1”ではない。

 現在の最先端のデジタルは、“0”、“1”ではない。
 同じことは、自然の「色」についても言える。
 海でも空でも生物でも、自然な色とは、色のグラデーションで構成されているのだ。
 自然界には、“0”、“1”のデジタル化した色の境界が存在しない。
 建築家「アントニオ・ガウディ」の遺作、スペイン・バルセロナの教会建築「サクラダファミリア」。今も建設が続く。
 このサクラダファミリアの芸術工房監督が福岡出身の日本人彫刻家「外尾悦郎」だ。いま、外尾氏が取り組んでいるのが「イエスの塔」。完成すると世界一のカトリック教会の塔になる予定だ。ただし、ガウディの設計図や文書はスペイン内戦で失われ、わずかな資料からガウディの考え方を想像して、ガウディの求めた色を見つけ出す地道な作業だ。
 外尾氏は別の寺院で見つかったガラスや自然顔料などの資料から、ガウディが構想していた「イエスの塔」が、水、空気、光、土という「森羅万象」を色で表現しようとしていたことを見出す。

自然の色とは何か?

 自然の色とは何か?
 外尾氏は、サクラダファミリアで見た「夜明けの空」に、その解を見出した。
 空の「青」と太陽の「ピンク」が混じる朝焼けの「紫」だ。
 ただ、自然な色とは、さまざまな色が混じり合いながら変化していく。
 それゆえ、紫を基調にしながらも、ひとつのガラスの中で色が変化するようにしたのだ。
 先端的なデジタル社会とは“0”と“1”以外認めない排他的な社会ではなく、実は人の脳や自然の色のように、より多様な要素や人がそれぞれの役割を果たす社会であると思う。いままさに、みんながまとまって新型コロナの難局を切り抜ける知恵が求められている。

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