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未来の建設業を考える:「協調」と「競争」のある産業育成へ

「独占レント」ではなく、パートナー的位置付けとしての「関係レント」が大きく寄与

 大手ゼネコンにおける決算が発表された。殆どの会社で、利益が増加しV字回復を予想させた。喜ばしいことだ。一方、トヨタ自動車は、最終利益で、日本の製造業で過去最高となる前期比83・6%増の4兆5000億円を更新し、好調さを持続しつづけている。この増益要因について、トヨタ自動車では、原価改善1千1百億円、営業面1百億円と、原価改善によるものであるとしている。これだけ聞くと、乾いた雑巾を更に絞る商法で、系列企業やサプライヤーたたきを行うことにより、達成した数字だと指摘する人も多いことであろう。しかし実態は、メーカーとサプライヤーの「協調」と「競争」の成果と言ってよい。メーカーとサプライヤーの関係は建設業の一部に見られる「独占レント」ではなく、パートナー的位置付けとしての「関係レント」が大きく寄与している。

作りやすい部品の設計(Design for Manufacturing)

 自動車産業では、中核的なパートナーを選択する際の評価システムとして、メーカー職員が実際に現地へ出向き、トップも含めた職員と会い「現地現物」に基づき、品質、原価、納入・生産、技術、経営(たとえば、トップのリーダーシップなど)の各項目を評価している。生産システムの藤本隆宏氏によれば、日本では、製造と詳細設計を同じ部品メーカーに任せる(実に部品費用の60%を占める)承認図方式により、作りやすい部品の設計(Design for Manufacturing)を実現しており、それによりサプライヤーの技術力向上を通じた産業改革に成功している。特に、契約については、開発コンペ方式を導入することで、企画段階から、伊丹敬之(1988)の称した「見える手の競争」により、競争的にパートナー(サプライヤー)を選定し、自動車産業における競争の優位性を高めている。

専門工事業者を信頼できる「パートナー」として

 一方、建設業における元請と専門工事業者の関係はどうであろうか?
 単にコストのみで、パートナーの選択をしているのではなかろうか?確かに、発注者から建設コスト縮減の要請が多い中、文字通りバッファとしての独占レントを強要していたのではなかろうか?また、コストに主眼を置きすぎた競争性により、品質や技術といった点が薄れてきているのではないだろうか?さらには、専門工事業者へ「まとめて任せる方式」に近い発注であるにもかかわらず、米国の自動車産業のように貸与図方式で、決められた仕事をこなすだけの専門工事業者としてしか見てこなかったのではなかろうか?建設業の外注率も60%後半を占める現在、専門工事業者を信頼できる「パートナー」として選定することが必要だと思う。元請にとって信頼できるバートナーを多様な評価軸から見出し、パートナーの技術力向上を促すような競争関係を保ったうえで、パートナーとのリスクシェアーを行うような「協調」関係が必要である。

建設産業の効率化に対する提言「Rethinking Construction」

 すでにイギリスでは、コンストラクション・タスクフォース委員長ジョン・イーガン氏が中心となり、1998年7月に英建設産業の効率化に対する提言「Rethinking Construction」を取りまとめ、その中で、自動車産業など他産業の効率化手法を積極的に取り入れた結果として、パートナリング、サプライチェーン・マネジメントの導入や全英規模のベンチマーキングを実施することなどにより、より効率的な建設産業への改革が始まっている。

パートナーとしての「協調」とパートナー間の健全な「競争」

 建設産業のV字回復が持続するためにも、自動車産業に学び、まずは信頼されるパートナーとしての「協調」とパートナー間の健全な「競争」の導入を、建設産業全体で推進することが求められているのではなかろうか。

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