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未来の建設業を考える:「総合の力」

「失敗学のすすめ」

 「失敗学のすすめ」の著者で有名な畑村洋太郎氏によると、失敗学は創造するために必要不可欠なプロセスであり、創造力こそが日本経済再生に必須であると指摘し、さらに、この創造する過程で最も重要なことが「総合」の力にあるという。

「総合」の力とは

 「総合」の力とは、先生によると、個別の解決策から全体構造にまとめあげていく過程のことで、いわゆる全体をマネジメントする力とも言えよう。
 建設産業においても、目的とする建築物が複雑化、発注者ニーズが多様化する中で、それにつれて、専門分化が進んでいるといわれている。そのため、プロジェクト・マネジメントやコンストラクション・マネジメントなど、プロジェクトを統括することが注目されている。しかし、これらのマネジメントさえ、単なる調達方式のひとつとしてとらえ、本来のマネジメント、「総合」する力の強化に対する教育が進んでいないのではないだろうか。
 畑村氏は「総合」の力について、日米の保険業を例に解説している。日本の保険会社は顧客ニーズの多様化に伴い、次々と保険商品を開発し個々の解決には至った。だが、「総合」的な解決にはなっていなかった。ところが、外資系の保険会社は、顧客のさまざまな要望を踏まえたうえで、個々の顧客ニーズをすべて包含した「総合」的な保険、つまり「顧客ごとの保険設計」という新しい概念により、「総合」を創造し市場を獲得することに成功した。

建設業界は

 建設業界はこの事例をどう受け止めるのであろうか。
 もともと建設は個々の発注者のニーズを把握し、それを昇華させたうえで、モノをつくることをやってきたので、十分な「総合」の力があると言うのであろうか。
 あるいは、従来からゼネコンでは設計施工一括や一式工事で施エしてきたので、「総合」の力はあると言えるのであろうか。設計者であればどぅであろう。昨今、設計者が工事監理も実施してこそ、プロジェクトの品質が保たれるとした議論がなされている。これも「総合」の力が必要だからだろうか。

「総合」の力であるところのマネジメント能力

 もともと「総合」の力であるところのマネジメント能力は、最終的な結果やモノを保証するものではなく、いかにプロセスをマネジメントし、発注者ニーズに合致したモノヘと技術や知識を駆使して組織をコントロールしていくかの能力であるはず。単なる責任の一元化により、単に「総合」の力が得られることではない。あくまで「総合」の力を持った人により、結果として責任が集約され、発注者の信頼を得られるのである。

マネジメント能力を持った人材の輩出に期待

 昨今、従来の建設の枠にとらわれない多様な分野から、建設調達やプロジェクトマネジメントヘと参入する事例を見る。そこでは、建設調達は、資金調達や建設投資が経営に与える影響、将来キャツシュフローなど、多くの課題のひとつにすぎない。
 日本の建設産業が文字通り請け負けになるのか、発注者ニーズに近いところでメーンプレイヤーとなれるのかは、「総合」の力を持った人材育成にかかっているのではなかろうか。将来の創造的な建設産業を達成するためにも、改めて、マネジメント能力を持った人材の輩出に期待したい。

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