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「ドイツ 高効率エネルギー住宅視察 報告」③ 2013.11.20 Facebook投稿より

「実体経済と結びついている、先端技術と研究成果」


10/23研修2日目、午前中はシュトューリンゲン、建物コーティングに関する世界有数の国際的メーカー「シュトー社」にて各種プレゼンやドイツ・欧州の温断熱・パッシブへの運用やこれからのビジョンの報告、社内施設の解説付き案内。


シュトゥーリンゲンはバーデン・ヴュルテンベルク州の南部に位置する、スイスとの国境に接する小さな町で、人口は約5000人、国の保護地区に認定されたドイツで二番目に大きい自然公園である「南の黒い森(南のシュバルツヴァルト)」の一部でもあり、上質な空気と環境から、慢性呼吸疾患や皮膚病の治療に適しているエアースパ療養地として国に認定されています。


その町の最大手企業「シュトー社 Sto AG」は1835年にヴァイツェンで石灰セメントを製造する工場として創業し、最初に樹脂プラスターを開発した伝統ある会社で1955年設立、1964年に通気層なしでの複合断熱システムを世界で初めて開発、1995年からは樹脂性ベースメントとトップコートによる軽量で動きに追従するファサード・デザインを始めとして多岐に展開(建物はもちろん、ロンドンのオペラハウスから宇宙空間技術まで)、欧州、北米、東南アジアを中心に、シベリアからアフリカ、中東までを販売エリアとしており、現在4700人の従業員を擁します(半数は海外20を越える子会社にて)。
主要商品の外断熱システム「Sto Therm Classic」は開発から40余年の間、世界で10,000万㎡以上の施工実績があります。
子会社のシュトー・ジャパンも設立、北海道から沖縄まで既に500棟以上施工されています。


日本では対地震、耐震性も強化し、2011.03.11の地震による外壁のヒビに対しての亀裂も無し、現在は木造住宅での防火・耐震関連の認可取得にも動いているとの事です。


「高効率エネルギー」において重点を置いている技術は、パッシブハウス性能の為の「内外断熱システム」における革新的な断熱材(1日目視察の高層パッシブハウスにも採用のナノ・テクノロジーによるAerogel始め)、採暖用日光を通す壁材やNOX分解する光触媒シーリング等と幅広く、現在開発が進められている例として、断熱材のみで構成されたシェル状の「断熱材のみの家:A House of EPS」や、真空断熱VIP(フラウンホーファー研究所でも使用)とEPSの組み合わせ等、さまざまな研究が紹介されました。
シュミレーション・ツールはWUFIを使用しているようです。


シュトー社からの特に印象的なコメントとしては、
「材料提供という観点ではなく、スペック(性能)を提供する」
というものがあり、あらゆる断熱材メーカーとの組み合わせ(環境適合性、一次エネルギーと材料ごとの関係まで考慮)を設定し、必ず要求性能が満たされるようにする、というものと、
「日本は、エネルギー節約のポテンシャルが大」
というものがありました。
前者は先進企業としての強い理念を感じますし、後者は裏返せば、それだけ日本の実態が遅れている、という事が言えるかと思います。


午後はフライブルクに戻り、ドイツ太陽エネルギー研究の総本山とも言える「フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所(ISE)」にて、最先端技術の紹介と所内施設の解説付き案内。


太陽エネルギー分野における欧州最大の研究機関であり、太陽光発電、太陽熱を含む5つの部門から形成、最先端の技術、人、設備を集約し、研究所としての材料、コンポーネント、システム及び手順の開発に留まらず、業務としてコンサルティングから始まり、企画、ノウハウや必要な機材の貸し出しなど、あらゆるサービスを提供し、企業とも協力しています。
注目すべきは1,300名もの研究員を抱えながら、その半分は身分が大学生だという事で、研究員としての育成も行う、先進の環境です。


建物内部に入ってすぐ見上げると、透過部と発電セルがリズミカルに配置された採光屋根が目をひきます。
ここでは中心となるソーラー・セルについてはシリコンの純度を上げ、できるだけ薄くカットしたセル・モジュールの製作まで手掛け、その他、有機質(樹脂性)セル、シルクスクリーン状に電導材をプリントしたセル、メタルラップ・タイプ、温度上昇による発電ロスを抑えるヒートシンク(熱吸収)・タイプ等々、あらゆるタイプの発電部材が開発されており、来場者向けにも展示されています。


もちろん発電用部材ばかりではありません。
「エネルギー抽出・分配とエネルギー効率」を主題に、電気貯蔵に関しての電解貯蔵、水素電池、リチウムイオン、多層型燃料電池、電解液を別としたタイプ、99%という世界最高効率のインバーター、熱の吸収特性を持つパラフィン利用の建物内貯蔵(サーモ・アクティブ)システム等、紹介されるだけでも目を見張るものばかりです。
同じく、太陽熱集光器も特定面上での最適位置のアルゴリズムを得る為にバイオメトリクス(血管の枝分かれ等)を応用したり、通常なら70℃までしか上がらない環境下で150℃まで確保できるコレクター(集光器)の開発、シリカ剤と併用した太陽熱利用冷却装置(ソーラー冷却)、ノンシリコンタイプ多層半導体発電、500倍に集中させるレンズ、ゲルマニウム使用の直径10センチの中に1000個のセル、直射日光が多い地域(スペインを始めとして、南欧、南北アメリカ、アフリカ南西部)向けの発電プラントシステム、変動型電力料金設定可能な無線電力計等々、聴いているだけでもオーバーフローしそうになるほどの技術展開数でした。


そして、それらの研究を支える財源としては、フラウンホーファー・ソサエティー、(プロジェクト連携を元に)企業との契約(逆に製品の納入義務があります)、ドイツ連邦環境省、EUから、と各方面より構成されています。


その後、2013.04に出来たばかりの別館に移動して、座学にて技術紹介のセミナー。
こちらでは外壁のファサード(立面)・デザインに新型ソーラー・スクリーンのパネルを10枚組み込んでディスプレイされています。
以降、(有効な)外壁全面に設置予定とか。


そう、太陽光発電に関しては既にファサード面(壁、窓)での利用研究が大きく進められています。


ソーラー・ファサード(SoFa)の研究開発としては、建物内蔵型太陽光発電、建物内蔵型太陽熱利用、日射利用のパッシブシステム、の3つの領域について解説を受けました。
文字通り、ファサードに内蔵されたソーラー発電としては外壁面のパネルはもちろん、サッシ部ガラス面内部への設置も実例化されており、会場の内外の窓部で見る事ができます。この場合、窓を通して室内から外は見えますが、日射は中に入らない構造となっています。
もうガラス・ファサードと同程度までコストも下げる事ができるとの事で、屋根だけではない外皮も含めた発電が実際化されています。


屋根面と壁面設置の使い分けについての質疑も出ましたが、積雪時は屋根面は無効となる時期もあるので、効率が落ちるものの、壁面設置でも雪の照り返しにより、ほぼ屋根と近い発電量が確保できる条件もある、との事です。
拡散光でもあるので周辺状況(隣家の外壁色によっても異なるので)もよく確認し、シュミレーションと実測の比較も必要ですが、ゼロエネ住宅とするのに屋根面だけでは不足する場合もあり、有効な設置方法でしょう。


ファサード内蔵型の集熱としては壁内に集熱パイプを設置し、ヒートポンプと組み合わせる例の紹介も。窓組込型として、空気で熱を運ぶコレクターも。
日射利用のパッシブシステムについては、日射調節用ブラインドの断面形状によっても室内環境では従来品との明らかな違いがあり、グレアの制御と共に居住者への環境調査も取り入れた検討をしています。
その他、新型日射角度変動型集光ガラスによる「g-value」、どれぐらい日射が入るか計算、調整する技術の紹介。


現在は建物全体のエネルギー収支にクローズアップし、年間に渡りエネルギー収支をプラスにするにはどうしたらよいか、という観点から、「断熱技術で消費を抑えて、残りを過剰な設備ではなく、再生可能な代替エネルギーで補う」という方向でさまざまな検討をしており、これはEU目標での「新築エネルギー0」の基本的な考えでもあります。


また企業とも積極的に組み、外皮の新しいコンポーネントをつくり、重要なパラメーターを測定、フィードバックする体制がとられています。
デザイン性にも力を入れています。


その他、熱工学、熱化学について様々な知見の紹介がありました。
大きな課題として提示されたのが、「熱蓄蔵は、これからのキー・テクノロジー」だという事です。
これは変動の大きいとされる再生可能エネルギーはもちろん、化石燃料によるエネルギーについても言えることであり、この技術の発展無しに供給の安定も無いとの提言には、大いに同感した次第です(例えば地域暖房エネルギー網等を考えても、重要性が理解できます)。


それでは、また次回。


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