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「ドイツ 高効率エネルギー住宅視察 報告」⑤ 2013.11.23 Facebook投稿より

「ゼロ・エネルギー都市プロジェクト、パッシブハウス級木造8階建て住居の現場視察」


10/25 研修4日目は、午前中はバート・アイブリング市、「旧アメリカ軍基地・ゼロエネルギー地区」にて、ゼロ・エネルギー都市としての各種施設、断熱改修後の木造8階建て集合住宅のガイド付き案内。


バート・アイブリングは人口約17,000人、バイエルン州の最古の湿原温泉がある有名な国立療養地で、この地には多くの大規模な静養所やリハビリの設備があるとか。


その地域にある今回の旧アメリカ軍事基地、この地区はB&O社(年に2500のマンション近代化改築と60万世帯のメンテナンス事業を展開する会社)が再利用すべく買収しました。
元はドイツ軍のパイロット養成所~連合軍の捕虜収容所でもあったこの地域、アメリカ軍に占領された際は常時1400~2000人の兵士がいたとの事で、基地内をリトルタウンとして住居をはじめとして、幼稚園から野球場、ボーリング場まであらゆる設備がつくられました。東西統合後、2004年にアメリカが撤退し、2006年にB&Oが買い取った際の約72,000㎡の住居部分の使用可能な地域にパッシブハウスや最新の高効率エネルギー基準による再開発が計画され、現在、改築中です。
コンセプトとしては「ゼロ・エネルギー都市(ゼロ・エミッション)」をモットーとし、様々なガイドラインと共に、年間を通してエネルギー収支(売電や買電も含む)がゼロを実現すべく、需要レベルに応じた高断熱改築施工、ソーラー発電はもちろん、水力、地域内調達材使用の木材チップ・ヒーターによる各家庭への給湯・暖房用温水配管(旧設備を再利用)、700メートルもの太陽熱コレクター、併設したヒートポンプなど、「暖房網」も充実、2011.01より研究プロジェクトとして3年半モニタリングされています。
そして、これら施設はB&Oから顧客、住宅会社への多種類の施工モデルとしても機能しており、また持続性のある建築として木造建築がベストである、という観点での都市住宅、集合住宅、W(ダブル)ハウスなどのコンペ会場としても機能している、との事です。


その中で実際に視察したのは、木材発熱所(建築家による意匠設計。内部には巨大なボイラーが)、ソーラー・デカスロンでの入賞建物(確か、日本は惨敗したような記憶が・・・http://kensetsunewspickup.blogspot.jp/2012/12/2014.html)、2010スキー選手権時のパビリオン(この場所に移設)、ウッド・ファサード改築例、そして、なんとオール木造8階建ての住宅・事務所。


ウッド・ファサード改修は居住したまま既存住宅にそのままプレハブ・パネルを取りつけてから内外の窓を合体させる、というもので、外壁そのものがコレクターからのパイプやエアダクトのスペースとして利用できるメリットを持ちます。
仕上の見本も兼ねて、様々なフィニッシュから素地仕上までが見られます。


圧巻は1階から8階まですべて木造の集合住宅(事務所含む)で、火災時の避難上、階段室のみRCで独立しており、各階の各室にはEVを降りてここをアクセスしてから入るようになっています。ちなみに8階以上も可能だが(避難階段等条件は厳しくなる)、消防ハシゴ車の最大到達距離が23メートルの為、ほぼその高さギリギリとなっているそうです(ちなみに、この制限数値はミュンヘン市街の建物に関する説明時にも出てきました)。
住居自体の性能はパッシブハウスレベルまで高められおり、木製サッシ(木枠、トリプルガラス)、断熱材含む外壁厚は約40センチ(構造はマッシブ・ホルツ状。木繊維断熱材)となっています。
住居により、施工レベルや、賃料が異なるようです。
最上階の展示室には壁の断面模型も各種設置してりますが、壁構造部の3倍近い断熱層の厚さには、改めて感じ入るものがあります。
壁部の熱貫流率は0.138近くとの事ですので、充分パッシブハウス・レベルです。
断熱材の種類には、延焼を防ぐ仕様(F90確保)としてミネラルウールを使用した模型も。


改めてB&O担当者(女性)との質疑応答の中でも、これからの建築構造材としては「木造」にシフトしていくであろう、との(B&Oの)見解も示され、実際に伸びてきているとの事です。
課題としては、今まで住民が持っていた木造への偏見(遮音性、高コスト)を消し、80年寿命も可能である(ドイツでは、ですね)、という点もアピールしていく事だとか。


午後はシュリアゼーからミュンヘンへの移動中、予定には無かった総合住宅展示場(50棟近くの展示あり)の視察。
元々は予定になかったのですが、参加者の一人の方が道中に展示場がある事を検索で見つけられ、参加者のほとんどが視察を希望し、無理をきいていただいた形です。


時間も限られていましたので慌ただしくほぼ外観のみを見て回り、建物の中には2件ほどしか入る事はできませんでしたが、場内はどこか日本の住宅展示場にも似た雰囲気で、それまで移動中に目にしていた市街地や郊外の住宅と、どれとも異なる今どき?の家がほとんどでした(どこに建ってるのでしょうか。市内は集合住宅が多いので、やはり郊外?)。
可動ルーバー等が組み込まれたデザインや色使い等は参考となりましたが・・・。


モデルは延床180㎡くらいがゴロゴロしていますが、実際の購入される規模は平均して130㎡前後、日本円にして¥3200万程度、という事であまり違和感は無かったです。
ただし、普通に地下室が付いていたりする、との事ですので、その辺りはお国柄が違います。
聞くと築15年になるものもあったりして、モデルの長持ち具合に、そしていまだに(もちろん改修は適宜、されているでしょうが)展示・訴求できるという点にも感心しました。


その後、前日と同じ宿泊地のミュンヘンへ。
ちなみに1972年夏季オリンピック開催地だったミュンヘンは、ドイツ連邦州、バイエルン州最大の州都であり、人口は130万人、ドイツの中ではベルリン、ハンブルクに続いて3番目に大きな都市です。
アルプス山脈北縁から50キロ離れたオーバーバイエルンの高い平野に位置し、金融はフランクフルトに次いで第二位、ドイツ最大規模の南ドイツ新聞やドイツ公共放送連盟(ARD)、Pro7やSat1などの放送局、あのBMWや情報通信機器製造のシーメンス、保険会社のアリアンツなど、数多くの大企業が本社の拠点を置いています。
また数多くの国際的競技会や見本市、大学、世界的に有名なビールフェスティバル、「オクトーバーフェスト」が開催(今回は残念ながら終わった後でした)される地としても知られ、ブンデスリーガに所属する2つのプロサッカークラブ、1860ミュンヘンとバイエルン・ミュンヘン(夜間に、光るスタジアム横を通りました)が本拠地を構えています。


5日目は、ミュンヘンから今回離発着したフランクフルト空港まで移動、(滞在中の1週間のみ、異常とも言えるらしい暖かい気候だったとか)紅葉の美しい小春日和のドイツを後にしました。


今回の日程を終えて思った事は、建築、住宅を取り巻く状況として 、ドイツで国全体、各州として要求されるレベルの高さとそれを実現可能にするノウハウの蓄積、また、それに取り組む産・官・学の一体化した取り組みも、やはり日本より数段先(10年か?15年か?)を歩いている、というものです。
日本は、と言えば、現在既に施工されている目標基準相当を2020年までに義務化する、というような状況ですから・・・。


その中で甘んじることなく、高い性能のすぐれた住宅を提供していく責任の大きさも、改めて、実感した次第です
その辺りの個人的な所感は次回に、たっぷりと語りたいと思います。


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