インフォームドコンセントと患者の責務

本稿では、インフォームドコンセント(以下、IC)がここ30年で普及してきたことを鑑み患者の視点からその現状の問題点を指摘する。

ICとは、1964年のヘルシンキ宣言に端を発する概念で、患者の自主性および自己決定権の尊重を軸としている。具体的には、患者は医療行為を受ける際その医療行為の説明を受け、十分に理解した上で医療従事者と合意する権利を有する、また医療従事者はその義務があるという内容である。

ICは、医療従事者側が義務を負う概念であるため医療従事者、特に医師による自戒も含んだ現状批判が為されることが多い。例えば、滋賀県医師会前参与の折田雄一氏は、日本医師会のHP内で以下のように述べている。

医師・患者間の知識の溝は深い。しかし、私たち医師は患者の人柄を理解できる人間としての力量を高め、その患者が理解でき、かつ医療に潜む危険性をも納得してもらえる極めて高度の説明法を修得することが、医療技術の修得とともに医師の義務であろうと考えている。また、専門的な内容を相手が理解できる平易な言葉で説明できることが真のプロフェッショナルだと考える。

この指摘は、これまで何人もの医師と関わってきた筆者から見ても全く同感で、いわゆる禿同である。ICが広まって久しい今でも医師の中には、この人は患者に本当に理解させる気があるのだろうか、と思ってしまうような説明をする者も存在する。早口で専門用語を連発し、患者の理解の確認をせずに乱雑な字で書かれたまるで読めない同意書にサインを求めるのである。その医師の”講義”を録音し夜遅くまでその乱雑な説明書を”復元”し、専門用語を調べながら理解に努めたこともある。こうした医師は患者目線での説明力を身に着ける必要があるのは明白である。

しかし、努力するのは医師側だけで良いのだろうか。患者にも医師の説明を理解する責務がある、というのが筆者の主張である。筆者は長い入院生活を通じて周囲の患者を観察してきたが、自分が患った病気およびその治療、副作用に関する理解を放棄してしまっている場合がある。「医師が何を言っているのか分からないから」「~先生のことを信じているから」といった具合である。これではICの要素である合意ができていることにはならない。同意書にサインすることが合意ではないのである。医師の説明を十分に理解して初めて合意ができる。

では、患者が医師の説明を理解し合意に至るためには患者は何を改めるべきか。それは、自分の理解が及ばない時に医師の話を止め、質問攻めにすることである。何が分からないのか分からなかったり、初めから意味不明な場合には、「もう一度初めから平易な言葉でゆっくり説明してください」と言えばよい。とにかく理解に努めるのである。さらに言えば、事前に本やインターネットなどで予習してからICに臨むのも良いだろう。

前述のように、同意書が形骸化した紙切れになってしまっている場合も多い。患者は、自身やその家族などICの出席者全員が医師の説明を十分に理解するまで同意書にサインしない、ぐらいの姿勢を見せるべきではないだろうか。こうした患者が増えれば医師もより本気で理解させようと工夫を凝らした説明をするようになるだろう。


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