客観的事実とガン患者の意識~患者ケアの課題~

本稿では、ガン患者の闘病する気力を削ぎかねない、客観的な臨床データと患者の闘病への意識との間に生まれる葛藤を指摘し、患者ケアの課題として提起する。

筆者は、急性リンパ性白血病(以下、ALL)患者である。既に末梢血幹細胞移植、再発も経験し既に闘病を始めて9か月を迎えている。

白血病はいわば血液のガンである。以前は有効な治療法がなく、「不治の病」と呼ばれていたが、ここ20年で抗がん剤やチロシンキナーゼ阻害薬、そして移植治療の技術が発達し急激に治療成績が向上してきた。白血病はもはや「治る病」である、という報道も最近よく聞く。

確かに、白血病は治る、こともある。ただ治らずに命を落としてしまう患者も多くいる。「治る病」という言葉の響きは、ほぼ治せる大したことのない病だという印象を与えかねない。医師から厳しい現実を伝えられ、リスクのある治療を行っている患者からすれば、不本意なことである。白血病は「治ることもある病」なのである。そして明らかに「死ぬこともある病」でもある。

そこで、急性白血病の5年生存率に注目したい。筆者は、ALL患者なので例としてALLの5年生存率を挙げる。1991年~2016年に移植された登録例の5年生存率は、血縁・非血縁者間移植ともに45%程度である*1。
また、筆者の個人的経験を鑑みても、発症時には毎晩死の危険と隣り合わせであったし、1度目の移植での死亡率は20%、2度目の移植での死亡率は40%と厳しい話を聞いている。ここではALLの例を挙げたが他の白血病、他のガンについても一般的に再発した方が治癒は難しくなる。

前置きが長くなったが、ここからが本題である。患者は医師を通してこのような厳しい説明を受ける。余命を言い渡される場合もある。実際の臨床の現場は、最近の白血病に関する楽観的な報道とは対照的なのである。筆者を含めガン患者は時間をかけながらこの厳しい現実を受け入れていかなければならない。既知の通り、抗がん剤療法、手術療法、移植療法といったあらゆるガン治療は副作用や感染症など患者に大きな負担を強いるものである。果たして、示されている統計通り何割の確率で自分は死ぬんだ、と思いながらこれらの壮絶な治療に耐えることができるだろうか。筆者の個人的経験から言えば答えはNOである。こういった苦しい治療に耐えるモチベーションは、自分は絶対(100%?)生き延びるんだ、といった意識から生まれてくるのではないだろうか。

このように、治療のモチベーションとなる治すという意識・意気込みと客観的な統計データとの間には大きな乖離が存在する。長い闘病生活において時にはこの乖離に頭を悩まし、ナーバスな夜を過ごす患者やその家族も多いのではないだろうか。

このような時、看護師や医師、心理士あるいは友人など周囲の人々はどのように患者やその家族と接していくことが治療への姿勢を改善させることにつながるだろうか。患者ケアの1つの課題であると考える。


*1 日本における造血幹細胞移植の成績 2017年版 日本造血幹細胞移植学会http://www.jdchct.or.jp/data/slide/2017/transplants_2017_JDCHCT_20180329.pdf p22

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