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無菌室の観点から病院を選ぶ

筆者は白血病発覚から、都内3つの病院を転々としている。その経験の中で病院間で考え方や制度、設備などに大きく違いがあったと感じている。中でも特に大きな違いを感じたのは、無菌室に対する考え方だ。
本稿では、自らの経験を基に3病院の無菌室に対する考え方について比較、紹介していく。病院選びの参考にして頂ければ幸いである。なお、便宜的に3つの病院をA病院、B病院、C病院と記す。また、本稿はどの病院が良い悪いと批判するものではない。

そもそも、無菌室とは何か。
白血病を初めとする血液疾患患者に対して抗がん剤治療や放射線治療を行うと骨髄の血球をつくるはたらきが抑制される。これにより白血球、赤血球、血小板が軒並み減少する。これを骨髄抑制という。赤血球、血小板は輸血を行うことで減少を抑えられるが、白血球の場合にはそうはいかない。白血球の型は複雑で普通は合わせることができないのだ。
白血球が減少している間は免疫力が低下するので無菌室で過ごすことが推奨される。無菌室に入る基準は病院にもよるが概ね血中の好中球の数が500個/μℓ以下の場合、プラス医師の判断だ。無菌室では真菌(カビ)を防ぐフィルターが設置されている。これはアスペルギウス肺炎を予防するためのものである。はっきり言ってそれだけだ。近年、患者の身体的・精神的負担を鑑みて、無菌室の簡略化が進んでおり最終的にこのような形態になった。これでも患者の病態には影響がないことは実証済みだ。もう、「セカチュー」のような無菌室はだいぶ昔の話なのである。
以下は、現代的な無菌室の個室だ。(ちょっと豪華な病室の写真を持ってきてしまったが…


無菌に対する厳しさを各病院について比較すると
f(A病院) > f(B病院) >f(C病院)  ただし、f:病院集合→R^+  だろう。

A病院
A病院では検査を除いては本当に無菌室から1歩も出ることは許されていなかった。トイレも病室内にあるのでまさに軟禁状態だ。面会も家族以外は禁止である。親戚もダメだそうだ。冗談かは分からぬが病室の窓越しに手を振るのはOKだそうだwおかげで多くの面会を断らざるを得なかった。
シャワーも禁止。シャワー室はカビの温床だ。食事制限も厳しく生野菜や生クリームといったナマモノは禁止である。そして好中球の値が1200,1300と増加してきてもなかなか無菌室から出してもらえない。
極めつけは退院後も食事制限が続いたこと。電車やバスなどの公共交通機関の利用を禁じられたことである。おかげでタクシー代をたんまり使うことになった。

B病院
A病院から転院したB病院でまず驚いたのは、A病院で禁じられていた生野菜がいきなり病院食で出たことである。なんのことはない、入院時無菌室に入る必要のない状態だったから当然だ。一時退院の際も電車やバスの利用は問題ないとされた。
シャワーについては、A病院とは真逆の考え方であった。無菌室入室患者に対しても、清潔面からシャワーを浴びるよう推奨された。たしかにA病院退院後に初めて自宅の風呂に入った時は身体中からとんでもない量の垢が放出された。実習生に聞けば付属大学の授業から患者の清潔を保つよう指導されているようである。
無菌室に入室しても、A病院のように軟禁されなかった。ただしこれは医師や看護師によって見解が様々で、必要時以外は無菌室にいるよう指示する者もいれば、談話室でだべっていても良いとする者、病棟を出てコンビニまで買い物を許可する者もいた。これでは患者が混乱するので病院としての原則を決めておくべきだろう。
好中球の数が規定値を上回ったら、その日に無菌室を出ることができたし食事も通常食に戻った。さらには、病院外への外出や外泊までも許可された。

C病院
C病院は、無菌室の簡略化の潮流にさらに乗っている。なんと好中球の数が減少しても、無菌室には入れられないのである(ただし、造血幹細胞移植治療の場合を除く)。これは、無菌室に入ってもアスペルギウス肺炎の予防しかできないこと、患者の身体的・精神的負荷を天秤にかけての判断である。今のところ、この方針により大きな問題が起こったことはないそうである。無菌室に入らないため、シャワー制限も食事制限も行動制限もない。たしかに患者からすればストレス軽減につながっている。

以上、3つの病院の無菌室の考え方を紹介してきたが、その様相は様々であった。しかし、無菌室の簡略化の潮流は今後も進むだろう。A病院のような古い考え方の病院も減ってくるように思われる。
血液疾患患者は入院や転院の際、外来の機会などでその病院の無菌室の考え方を尋ね、自分に合った病院を見つけることが肝要である。血液疾患の入院は非常に長いので、自身のQOLには最大限気を遣うべきだ。

*1 好中球数の計算式は、好中球数= (Seg+Stab)/100 * 白血球数 
Segは白血球中の分葉核球率、Stabは白血球中の桿状核球率を示す。

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