福岡のやばい父ちゃん 第3話 「名前」
「じゃんけんしな」
父が兄と僕に言った。
意味がわからなかったがじゃんけんをし、僕が負けた。
「じゃあ、二郎は明日から井上な」
僕はもともと吉田二郎という名前だった。
井上とは母方の姓
父も母も兄も吉田で僕は井上。
小学生の段階で、父が義兄さん、母が姉さん、兄が甥になった。
別に離婚とか養子になったわけじゃない。
引越しの時、税金が少し安くなるという理由で僕は井上になった。
小学校では、もちろん、離婚したと噂がまわり同級生が励ましのお便りをくれた。
離婚じゃなくて引越し代が少し安くなるからだよ。
そう言ったが
小学生には難しかったようで離婚を隠している健気な少年にしかみえなかったみたいだ。
僕はプレゼントももらった。
そして
父は祖父にぶん殴られた。
子供の苗字をそんなに変えるものじゃない、祖父は激怒したようだ。
すぐに吉田に戻った。
しかし結局、高校生の時に祖母の遺産を相続する為に井上になった。
先生が
「明日から吉田の苗字が井上になる」
そう言い放った。
クラスがざわざわした。
多分、熱血教師だったので、そのセリフが言いたかったのではないかと思う。
言い放つ必要はなかった。
問題なのは戸籍上、高校生の段階でバツ3になったことだ。
自分の戸籍を見た時、思わず言葉が出た
「汚ったね」
バツが3っつもある。消せばいいのに、一生消えない烙印として、吉田にバツ、井上にバツ、吉田にバツ、名前の上にバツがついている。
そして今、井上だ。
僕は一回捨てた井上をゴミ箱から拾って使っている。
リサイクルな男だ。
父の適当さは、僕の苗字に始まった事ではない。
息子の名前も適当だった。
二人の息子に太郎二郎と名付けた。
目立つ名前だった。
明るい僕は、覚えやすい名前で人気者になった。
陰気な兄は、必要以上に名前が目立ってしまいいじめられた。
目立つ名前は諸刃の剣だ。
父に名前の由来を聞いたら
「うけると思った」
だった。
思春期の僕にはきつかった。
実際うけるかどうかはわからないが父が早くうけたい為に、兄と僕は誕生日が近い。
僕も兄貴もこの名前が嫌いだった。
僕と兄が所要で役所に行ったときについでに遺産相続の説明を受けた事がある。
役所の方が、遺産相続の手引きを見ながら口頭で説明してくれた。
もし父親が死んだ場合、遺産が1000万円とします。
仮にお兄さんを太郎さんとして、弟さんを二郎さんとしたら、母に500万円、太郎さんに250万、二郎さんにも250万円と話してくた。
仮にじゃなかった。
実際に太郎と二郎だった。
その手引きは僕ら専用だった。
仮にじゃないからとつっこみを入れたかった。
役所のしずかな雰囲気が僕を躊躇させた。
仮に二郎さんの収入が0円とすると・・
と恐ろしい架空の話を始めたので役場を後にした。
小学生の頃に、南極物語という映画が上映されていた。
主人公はタロとジロ。
南極大陸で一年生き延びる犬の話だ。
太郎、二郎という名前から。
南極物語といじめられ。
生命力が強いと意味がわからないいじめをうけたのもこの頃だ。
そして家族で南極物語を見に行った。
小学生の僕はドラえもんなどがみたくて、はっきり言って興味なかった。
兄も同様で、上映中眠ってしまった。
そして忘れもしないラストシーン
南極大陸の捜査隊員が一年ぶりに南極を捜査し生き残った二匹の犬を発見した時
隊員が映画館に響き渡る声で
「タロー!」と叫んだ。
その叫びが、兄の眠りから覚ました。
「はい!」
寝ぼけてた兄は元気よく返事した。
家族は恥ずかしくて真っ赤になった。
父は嬉々としていた。
この話をいろんな所でしたようだ。
こういった事も後に兄に熱湯をかけられる原因となる。
それもこれも名前のせいだと思っていた。
しかし大人になり
自分の二郎という名前の中に「良」という漢字が入っている事に気づいた。
ダメだダメだといろんな人に言われ、へこんでいる時期だった。
自分の中に良いという字が入ってると気づき力になった。
偶然だが妙に嬉しく救われた。
娘に甘いもの買います!