しくじり_03

福岡のやばい父ちゃん 第1話 「服」

「まちんしゃい!」

母の声だ

父がまた

Tシャツにミッキーマウスのトランクス一枚で町に出ようとした。

「ミッキーマウスばい」

理解不能の返しが飛び出す。

父は破天荒だ。

そして服に無頓着だった。

いつも自分がどんな服を着ているか把握していなかった。

昔、社員旅行についていき、温泉へ行った時

風呂上りに同じ会社の社員に服をほめられていた。

珍しくストライプの上品なシャツを着た父は

「そう?」

と相変わらず無頓着だった
しかし

母の顔がみるみる青ざめた。

「こんな服もっとらんばい」

そうだった。

父は見ず知らずの他人の服を間違えて着ていた。

あわてて返しに行こうとするも

時すでに遅く

父と同じく部屋から浴衣をもって来ていなかったからだろうか。

父のアロハを着たふてくされた顔のおじさんが浴場から出てきた。

「服が似とるけんしょーんなかね」

と父は笑顔で千円札を渡していた。

小学生の時

スーパーマーケットで同級生が父親と買い物に来ていた。

同級生の父親はスーツで来ていた。格好よかった。

僕も父親と来ていた。

僕の父はジーパンになぜか母のシャツを着ていた。丸い襟で花柄であきらかに女物だった。

必死で父を隠そうとしたが

「家の息子がお世話になってます」

という同級生の父親の丁寧な挨拶に

「二郎のちっちでーーす!!」

という挨拶を返し

僕の顔を真っ赤にさせた。

女物の服を着ていることと、度を越したハイテンションさから

僕の父親がゲイだという噂はあっという間に広がった。

三年前だろうか

そんな父が服に目覚めた。

こんな軽くてあったかいジャンパー初めてだ!

感動した父は、一着3万円はするであろうそのメーカーのジャンパーを親族一同にプレゼントした。

本当にあったかく、軽く、そして格好良く
嬉しかった僕は父にお礼の電話をした

「ありがとう」

「そげんことで電話せんで良かよ」

しばし日常的な話をし同封されていたカタログを見ながら

「父さんはどれ着とると?」

と質問した

「お前と同じバイ」

お揃いかーと思いつつ。何気なく

「母さんにはどれあげたと?」

と質問した

「お前と同じのばい」

「・・・そう・・兄ちゃんには?」

「お前と同じのばい、おばさんとか従兄弟とかも同じばい」

・・・・。

そうだった。

父は親族全員に色もデザインもまったく同じのジャンパーをプレゼントしていた。

そのメーカーが気に入ったと思っていたが、その服が気に入っていたのだった。

普段着る分にはいいが

冬などに家族が集まることがあれば大変だ。

家族がまったく同じジャンパーを着ている。

それはもう井上家ではく、「チームINOUE」だ。
マラソンのチームだ。

葬式などで親族が集まったら大変だ。親族なのか葬式のスタッフなのかわからない。

どちらかというと葬式のスタッフの方が統一感がないから親族にも見える。

葬式のスタッフが参列し、親族がこまごまとした作業をやってる状態だ。

新しい葬式の形をご提案だ。

もうあきれて、なんで同じにしたのか聞く気にもならない。

聞いたら絶対に

すごい疑問の声でこういうだろう

「みんな同じでよかろうもん」

それで僕は

実家に帰る時には少し汚いダッフルコートを着て帰る。

娘に甘いもの買います!