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好きな曲に共感できなくなった話

 好きな曲に共感できなくなった。きっかけは就活が終わったからだった。

 もともと聞いていた曲は、なんというか「失われていくモラトリアムにじりじりと焼かれながら、ゲロを吐きつつ何とか生きていこう」という楽曲群で、幼かったころの純真に満ちた思い出を溢れださせるようなメロディと歌詞が素晴らしかった。

 当然、就活の最中とか高校時代とか大学時代全般とかにこの楽曲群がめちゃくちゃにぶっ刺さるわけで。

 そういう曲を聴きつつ、それでいて遅めの中二病をこじらせながら、万能になりたい感情と現実の何もついていかない意識と体がお互いを殴り合って日々を血糊で真っ黒にしていたのが僕だった。

 それで、ある日就活が終わった。なんだかんだ、社会で働くことが認められるくらいに、自分には能力があると見込まれたようだ。不思議なものだ。薄めたカレーみたいにシャバシャバの個性に辟易しながら無能だと無才だと、社会に居場所がないと嗚咽してきたはずだというのに。

 そういう意味でも、案外僕は普通だったらしい。

 そこからだった。好きだった曲が遠くなったのは。

 我ながら単純すぎる。将来が見えたことで精神的に安定したのだろう。将来に絶望しながら枕を濡らしたりした自分がある種馬鹿らしく思えた。

 最近、カラオケにいった。好きだった曲を歌った。22歳の夏休みは、現状僕には来ない。少なくとも、数カ月前に歌った時とは、全然そこにある感情が違った。

 同じ場所にいたはずだったのに、まるで感傷ごっこをしているような気分になっていた。そもそも、それ以前も感傷ごっこだったのだと気づかされた。ああ、「不幸になりたかったんだなぁ」とそんなことを思った。

 なんというか先が決まった人間が調子に乗っているような感覚もある。でも、こういうことでその人の趣味だったりは変わっていくのだろうなあという認識もある。試しに、これまで聞いたことのない、流行りの音楽でも聴いてみようかと思った。

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