【3分で読める】「裸の勇者/Vaundy」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞解釈】
きっとこれが引き際なのだろう。呼吸は浅くなり、息をするたびに胸のあたりが苦しい。奴に裂かれた腹のあたりは、見た目以上のダメージを負っているようで、私が動けば動くほど赤色に染まっていく。
しかし、手加減なしの剣技を食らせたのだ。流石の奴にとっても、その手負いは大きいものだろう。私と同じく腹部を手でおさえ、俯き加減でこちらを睨んでいる。負けじと睨み返そうとするも、そんな精神的な余裕はもう残されていなかった。
奴は獣のようによだれを垂らし、目を光らせる。
それは、これまでにみたこともないような表情だった。
恨み、憎しみ、妬み、どの言葉でも言い表せないほどの絶対悪。
そうか。
私コイツを殺すためだけに、今日ここまで生きてきたのだ。ならば、ここで諦めるわけにはいかない。
とにかく、なんでもいい。
早く、武器になるモノを手に取れ。
手探りで周囲を探ると、冷たい何かが手に触れる。それは、地面に突き刺さった刀だった。おそらく、私が先ほど切り倒した敵が手に握っていたものだろう。刃先がボロボロにかけていて、もはやこんな鈍では何物も斬ることが出来ない。
この持ち主は一体、どれだけの訓練を積んだのだろうか。
その人にも好きな人や、友人、家族はいたのだろうか。
否。余計なことは考えるな。
今考えるべきなのは、私が救うことのできる人間のことだけ。
「やらなければやられる」ただそれだけのシンプルな話だ。
思考を停止する。
考えることをやめて、目の前の敵に集中する。
これは呪いなのだ。村人達が私を”勇者”と称えたあの日から、私は勇者としてしか生きられなくなった。誰かを傷つけることでしか、誰かを守ることができない。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」
金属が硬い何かにぶつかり、弾ける音がした。
刀をもう一度振り下ろす。
何度も、何度もブサイクに刀を振り回す。
先ほどとは違う感触が手に伝った。
それは私がこれまでに何度も何度も味わってきたモノと同じだった。
私の影が地面を這って、長く長く続いている。
〜Fin〜
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