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【3分で読める】「SPECIALZ/King Gnu」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞の意味】

浮かれた空気感は、やけに熱気を帯びていた。これまでに抑圧されてきた日本中のストレスの捌け口の役割を担うのが、ここ、渋谷である。

夕方のオレンジがかった空は消え、今では黒で覆い尽くされている。人工的な灯りがあちらこちらで揺れ動いているので、別に歩くのに困ることはない。

それよりも不都合なのは、身動きが自由に取れないことだった。車道歩道に関わらず人がごった返していて、振り向くことすら難儀だった。これではアイツと合流するのにも、相当苦労することが予想される。

ポケットのスマホに着信があった。ゴソゴソと取り出そうとすると、隣にいた女が舌打ちをした気がしたけれど、そんなことは気にしていられない。

「あー、もしもし」
「今どこ?」
「うーん。信号のあたり?」
「どこの信号だよ」
「知るか」
「何か目標になりそうなところはないの」
「ないない。見渡す限り人の山って感じだ」
「こっちも。はぁ、こんなことになるなら、うちでパーティしてた方がよかったな」
「それ、去年も言ってなかったか?」
「あれ、そうだっけ」

要領を得ない会話が続く。
周囲の騒音がうるさくところどころ聞こえないところもあったが、当たり障りのない話題ばかりなので、適当に相槌を打つだけで会話が成立する。アイツだってこの状況に辟易して電話をかけてきただけだろうから、なんとなく時間が潰せればそれでよかった。

「ハロウィンの起源って、イスラム教だっけ?」
「いや、確かキリスト教。サムハインって祭りが元だったらしいよ」
「サムハイン?」
「うん」
どうせアイツはこんな話に興味はないだろうなと思いつつ、話を続ける。
「10月31日の夜に死者の霊が現世に帰ってくるから、その夜に大きな火を焚いて悪霊を追い払ったり、仮装をして悪霊に紛れて安全を守ったりしていたんだ」

返事がない。
それからもらもう少し待ってみたが、何も返答はなかった。

「おい、お前が話振ったんだろ。興味ないからって、無視すんな」

そう言った途端、ちょうど視線の先200m先あたりで、女の悲鳴が聞こえた。切羽詰まった金切り声。その声をきき、突然胸のあたりがざわつきはじめた。

痴漢でも出たのだろうか。
いや、それにしてはなんだか…。
なんと表現すればよいだろうか。
そう、不気味。不気味な感覚。

先ほどまでの空とは何かが違う。
纏う空気が一瞬全て静止したかのような、違和感。

悲鳴は聞こえなくなった。
まもなく次々と悲鳴は伝播して、どんどんこちらへと近づいてくる。

こんな状況でも、俺は平然としていられるのは、どうしてだろうか。
いや、平然どころか、少しワクワクすらしている。こんな刺激的でスペシャルなイベントが起こるなんて。

相変わらずスマホからの返答はない。
次のしゅんかん、おれはー


〜fin〜


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